No.5 「鉄板」をひとつ

2015/05/15

当然ながら、教師は時間内にやることを組み立てて授業に臨む。が、時には順調にいき過ぎて時間が余ってしまう、ということもあるかもしれない。そんな時、私はあるネタを披露することにしている。若かりし頃に遭遇した、名付けて「窓返してよ!事件」である。

 

ある春先の日の深夜2時ごろのこと。当時、S区内にあるアパートの1階に住んでいたのであるが、どこからか「カタカタ」「ドスン!」という音がする。と、しばらくして部屋のトイレのドアが開き、中からスーツ姿の知らない男がボーッと出てくるではないか。 「何ですか?」―本来なら「キャー!」と叫ぶところだが、私はとっさにそう質問していた。すると、男は何も言わず再びトイレに戻っていったのである。不思議と恐怖心を感じなかった私は、男を追ってトイレのドアを開けた。と、トイレは窓も網戸も外されている間抜けな状況に。「カタカタ」というのは、窓を外していた音だったのだ。

 

驚いたことに、犯人は逃げる様子もなく、外に出てそのまま留まっていた。そこで、私は「夜中に見ず知らずの人の家に、しかもトイレから侵入する」という妙な犯行についてコンコンとお説教することになる。さらに、「ちょっと、窓返してよ!」と男に言い放ったのである。

 

結果、窓は返してもらえたものの(アパート前のゴミ捨て場に置いてきていた)、すぐに犯人は逃走。あまりに突飛な事件に遭遇した私は、その日は妙な疲れを感じて就寝し、翌日になって警察に通報した。アパートでは刑事ドラマさながらの指紋採取も行われ、後日警察署に出向いて詳しい調書もとられることとなる。そして、ちょうど1年後。その男は別件で逮捕され、うちのトイレで採取された指紋が決め手となって再逮捕、ということに。その時「面通し」というのも体験した。

 

こんな話を語彙コントロールしながら披露すると、学生たちは私が期待したポイントでしっかり笑ってくれる。これも、学習成果を測る「生教材」。「平成の語り部」として、これからも伝えていきたいと思っている。ちなみに、事件当日。実は、うっかりトイレの窓の鍵をかけ忘れていた。その辺りも入れた「語り」は年々磨きがかかっている。

 

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