No.16 さようなら朝の旅

2015/11/02

この秋、渋谷校が移転した。通い慣れた街にサヨナラを告げるのはやはり寂しいものがある。だが、それが少し意外でもあった。実は、若い頃からずっと渋谷の街に漂う「明るさ」が苦手だった。それが、縁あって勤務地となり9年間通ううちに、すっかり自分の「特別な街」になっていたことを知り、最終日には何だかしみじみとしてしまったのである。


朝のクラスがある日、つまり朝のラッシュアワーに出勤しなければならない時、私は最寄り駅から渋谷駅までバスを利用していた。9年間ずっとというわけではなく、後半の4年半―東日本大震災以降である。


それまでは電車通勤だったのだが、震災後に交通機関が大混乱した時、ふと思った。そう言えば、渋谷行のバスがある。そこで、試しに利用したのが思いのほか快適だった。始発から終点ゆえ、乗ったらあとはのんびりと車窓の景色を楽しむことができる。疲れている日は居眠りでもしながら、終点に着くのを待てばいい。早朝のバスはまだ利用客も少なく、お気に入りの「指定席」も、ほぼ100パーセントの確率で確保できるのも嬉しかった。毎朝、わずか210円のバス旅行を満喫していたのだ。


もっとも、1時間近い行程の車窓の風景はほとんど代わり映えしない。 ごく安穏とした空気で1日が始まっている。しかし、渋谷駅が近づくにつれて状況は徐々に変わる。いつもと同じ街並みではあるが、「キャスト」が常に一新するのである。朝帰りと思われる若者たち、観光客らしき外国人のカップル、開店準備をする人々……24時間休むことない街に集まる様々な姿を眺めているうちに、自分のスイッチが入るのがわかる。車窓に映る「朝の渋谷劇場」が、いつの間にか私の日常になっていたのだ。


ところで、先日帰省した際、母校である高校に足を運んでみた。正確には、懐かしい通学路が今どんなふうに変わっているのかを、同じ高校を卒業した姉といっしょに確かめに行ったのである。高校のある駅に降り立ったのは二十数年ぶり。シャッター通りと化した駅前通りに時代の流れを感じつつ、「あそこによく行った店があったよね」などと、姉と記憶を照らし合わせながらの探訪は、実に興味深く楽しい時間だった。

 

渋谷は今、大きく変わろうとしている。きっと、訪れるたびに新しい姿を見せてくれるだろう。その時々の「探訪」が、また楽しみである。

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