日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.22 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.22 喉は気まぐれ

2016/02/01

いきなりだが、ちょっとだけ自慢をさせてもらいたい。私は日本語教師を始めてから現在に至るまで、体調不良で授業を休んだことがない。もともと心身ともに丈夫というのもあるが、「無理はしない」と常に心がけているからだろう。適度に力を抜くことは大切だ。イメージとしては常に出すパワーは「75%」が理想で、あとは「いざ」という時のために残しておく。そんなバランスが、私には合っているのだと思う。


日本ならともかく、極寒のロシアでの4年間を病院とは無縁で過ごせたのは自分でも驚いた。もっとも言葉の問題もあり、医療機関を避けていた、というのもある。インフルエンザの季節になると、日本の派遣機関から「予防接種を受けよ」という通達があるのだが、一度も受けたことはない。それでも何とかやってきたとは、我ながら、恐るべしである。


そんな私でも、ここ数年で3回ほど「これは一大事」という状況に追い込まれたことがあった。ある日、朝起きたら声が出なくなってしまっていたのだ。何か前触れのようなものがあれば、それなりに気をつけようもあるのだが、ほぼ予告なしに、それは突然やってきた。仕方なく授業の前に学生に説明し、というより声を聞けばすぐわかるのだが、最悪のコンディションで授業することを詫びる。そして、講師仲間に勧められて買ったのど薬でケアし、「ハチミツ」「ショウガ」など効果がありそうなもので悪あがきを試みるのである。これが気分的にはかなり効く。


それでも、2週間近くは声ガラガラ状態が続く。「喉の調子が悪いときは、喉を使わないのが一番の治療」とはよく聞く話だが、さすがにそれは不可能である。しばらくは、80年代に大ヒットした独特なハスキーボイスがインパクトのある『ボヘミアン』が歌えそうな声で教壇に立つ。


ちなみに、私の異変の原因は、断じてカラオケやお酒などではない。改めて日本語教師が喉をいかに酷使しているか、ゆえに日頃からどれだけ喉を大切にしなければならないかを、心から深く反省した次第である。

 

幸い去年からは喉もご機嫌がいいようで、特に異変は起こっていない。だが、油断は禁物である。喉は気まぐれ。乾燥する冬だけではなく、一年365日いたわりながら、感謝しながら付き合いたいものだ。まさに「のど元過ぎれば熱さを忘れる」とならぬよう、日々心がけていきたい。

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