日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.25 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.25 主演男優賞

2016/03/18

留学クラスには週に数回の選択授業というものがある。本来のクラスとは関係なく、いくつかの選択肢から自分で学びたいものを選ぶ授業だ。日本語の試験対策もあれば、日本の地理や歴史、マンガや小説などテーマはさまざま。クラスの垣根を超えた授業は、学生にとっては気分転換になり、何より自分で選んだ内容ゆえ、おおむね好評のようである。


最近、その選択授業で初めて『演劇で学ぶ日本語』なるものの担当になってしまった。舞台のDVDを教材にするのかと思いきや、「演じて学ぶ」という授業だったから困った。メンバーには、なかなか個性的な学生が集まったが、果たして「演じて学ぶ」と知ってこれを選んだのだろうか。聞いてみると、彼らの多くは純粋に演じることに興味を持っているようだった。かくなる上は、教師も覚悟を決めるしかない。全6回にわたる授業で何をやるか、どう進めるか、かなり知恵を絞った。


いざ始めてみると…これが意外と興味深い。もともと演劇は好きだった。特に、20代から30代にかけては、お気に入りの劇団がいくつかあり、『ぴあ』を片手にいろんな小劇場を巡ったものである。授業でも、すぐに気分は観客側に。そういう立場で見ていると、彼らは立派な役者だった。例えば、「手話」をテーマにしたときのこと。「わたしは〇〇です。どうぞ、よろしくお願いします」と指文字も使いながらの自己紹介から、『ウサギとカメ』『北風と太陽』といった童話の手話まで、初心者であるはずの彼らが実にイキイキと、しかも堂々と発表してみせたから驚いた。


そして、迎えた最終回。私からの課題は「二人の会話」。「カップル」「教師と生徒」「親子」「オタク仲間」「店員と客」などなど、どんな場面設定でもいい。「二人」の空間を2分程度で演じるのだ。当日くじ引きでペアを決め、場面やセリフも全部オリジナルで考えて練習し、40分後には発表という段取り。しかし、彼らはこれも楽々クリア。自由にのびのびと、2分間のストーリーを演じる姿は見ていて感動すらした。みんなに賞をあげたくなるような力作揃い。中でもアイドルオタクに扮した学生の「怪演ぶり」は拍手喝采&大爆笑を浴び、主演男優賞モノであった。

 

小劇場と化した教室で感じたパワー。授業の主役が誰なのか、改めて学生たちに教えられたような気がした。私も、まだまだ学ぶことは多い。

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