日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.31 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.31 いざ衣替え

2016/06/20

今年も衣替えの季節がやってきた。6月1日の授業冒頭、これは絶好のタイミングと、さっそく学生たちに話題をふってみた。彼らがピンとくるように、「女子高生の制服」を例にしたところ、学生たちの反応も早かった。「日本の制服は、カワイイですね」と、男子学生は興味津々の様子。何やら、話が「衣替え」以前の制服談義になってしまったけれど。


なんでも、中国の学校では「制服」ではなく、通学も授業中もジャージ姿なのだとか。がっかりした表情の彼らに対して、他文化を尊重する意味で「でも、体育の授業のとき、着替えなくていいから便利ですね」と言うと、「中国の学校は体育の時間が少ないですから、意味がないです」との答え。とことん、自国の「制服事情」に不満があったようだ。


さて、いよいよ夏、である。「以前、ロシアに住んでいた」などと言うと、よほど寒さに強いのだろうと思われがちだ。が、私は冬と夏なら、断然、夏である。冬の「今日も寒いね」は、心から嫌だと思って発しているが、これからの季節の「今日も暑いね」は、「でも、やっぱり夏はこうじゃなくちゃ」という、それなりの愛情が込められているのである。


しかし、この季節ならではの問題もある。他ならぬ教室の温度調節である。教室のエアコンは、天井にドーンと取り付けられているのだが、真ん中にあるわけではない。エアコンから遠い席の学生たちは、うんざりしたように「暑い」と口にし、エアコンの真下の学生は「寒い」と口々に訴える。さらに、学生たちの出身国によって体感温度が異なることもあり、どこが「暑い」と「寒い」のラインなのかが不明。教室は、ちょっとしたエゴが渦巻く空間と化すのであった。私が授業中にかく汗には、こうした自己主張に翻弄される、冷や汗も含まれているのかもしれない。


ところで、「衣替え」と聞くと、なぜかウラジオストクを思い出す。現地は真夏でもめったに30度は超えない。しかし、長く厳しい冬とのギャップが、開放感をもたらすのだろう。学期末試験のこの季節、女子大生たちは、薄着かつ大胆になる。口頭試問のときなどは、私でも目のやり場に困ったものだ。おそらく、今年もそんな光景が繰り広げられているはずだ。この6月30日、ウラジオストクから帰国して丸10年になる。

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