日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.35 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.35 星に願いを

2016/08/19

学校の1階エントランス部分には、季節によって様々な演出が施されている。雛祭りの前には、七段飾りの雛人形が華やかに飾られていた。最近は、マンション仕様のコンパクトな雛飾りが増えていると聞くが、やはり豪華絢爛な七段飾りは迫力がある。雛祭りが近づき、見納めの日も近いかというある日。担当したクラスで「この1階にある雛人形、見ましたか?」と学生に聞いてみた。ほとんどの学生は「はい」と笑顔で答えていたが、ある女子学生だけは「え? 何のこと?」といった反応。どうも、朝はギリギリで学校に着き、授業後はさっと学校を出るため、全く目に入らなかったらしい。そういった余裕のない生活している学生にこそ、日本の四季折々の風物詩を楽しんでほしいものなのだが。


そして、今年の七夕前には、笹の葉と短冊が用意され、お願いごとを自由に書いて飾れるようになっていた。果たして学生たちがどんな願いを書いているのか気になって、人目を盗んで何枚かチラッと覗いてみたら、「〇〇大学に合格できますように」といったものもあれば、「国のおばあさんが元気になりますように」というものも。国を離れて暮らす学生たちにとって、家族の健康は切なる願いである。その「おばあさん」の、1日も早い快復を私も祈らずにはいられなかった。そんな中「イケメンになれますように」という、思わずふふっと笑ってしまうお願いも。ストレートな文に学生の人柄がにじみ出ている、私の中のヒット作だ。


ところで、「〇〇大学に合格できますように」というお願いが表しているように、日本での進学志望の学生にとっては、まさにこれからが勝負である。特に6月の日本留学試験の結果が芳しくなかった学生は、来る11月の試験でリベンジを果たすべく頑張らねばならない。数ある大学や専門学校からの受験校絞り込みも悩むところだ。願書を入手し、出願に必要な書類を揃えるのも自国からの取り寄せとなるため、早めに進めなければならない。が、なぜか多くの学生たちは『ギリギリ主義』である。最終的には「何とかなるでしょ」という考えなのだろうが、他人事ながらハラハラする。そんなバタバタした空気も、ある意味の風物詩だ。

 

毎年、合格が決まると1枚ずつ『祝・合格』の紙が貼り出される。今年も学生たちの願いが、一つでも多く叶うことを陰ながら祈っている。

35