日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.41 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.41 雪は降る

2016/11/21

冬がやってきた。年々、春と秋が短くなっているという声もよく聞くが、今年の日本列島も冬の訪れが早かったようだ。天気予報で「初雪」などという言葉を聞くだけで、「いよいよ来たか」と、どこか身の引き締まる思いがする。それは私が、冬の長い雪国出身だからかもしれない。


私の故郷では短い秋のあとに駆け足で冬が来て、特に前触れもなく雪は降り始める。幼い頃は、同じ日本でも雪が降らない地方があることを知らなかった。日本全国に「雪のある冬」が来ているものと思っていた。雪合戦、雪だるま、かまくら…冬のごく自然な光景に「まあ、冬も悪くないか」と、子どもながらに納得していたものである。もっとも、それを幻想的だと思うほどの感性はなく、ごく日常的なものだったが。


さて、そんな雪に埋もれた幼少時代など想像だにできないであろう、南の国から来た留学生たち。雪を見たことがないという学生たちにとって、この東京に降る初雪への期待感は計り知れない。雪が降る国からの学生にとっても、故郷を離れた「異国の雪」はまた感慨深いものがあるのだろう。朝の天気予報の受け売りで、授業の冒頭「今日は寒いですね。夜は雪になるらしいですよ」などと伝えようものなら、一瞬にして学生の目が輝き「何時から降りますか」と聞いてきた。予想以上の反応に「どうか天気予報が当たって、私が嘘つきになりませんように」と祈る。


そして、予報通りに雪が降った朝。学生たちは、幻想的な雪のあとにやってくる現実を思い知る。交通機関の乱れ、である。都会の交通機関は繊細だ。大幅な遅延の結果いつも以上に混雑する、という電車に乗って、学校に着いたときにはグッタリという学生が続出。教師としては、慣れない雪道でケガもせず、無事に登校したことを評価するのみだ。


そんな中、交通機関だけが原因で疲れたとは思えない、グッタリ感全開の女子学生がいた。聞けば、「昨日は寝られませんでした」とのこと。さてはゲーム魔か、何か悩みでもあるのかと思いきや、その答えに驚いた。「雪が見たくて、窓の外をずっと見ていました」。気がついたら朝だったと言う。雪も可愛い女の子にじっと見つめられたら、さぞ降りがいがあったことだろう。その光景を想像して、何だか温かい気持ちになった。この冬も、留学生の「ロマンティックな出会い」はあるのだろうか。

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