日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.42 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.42 ニュースな話

2016/12/12

あるクラスで「日本社会理解」なるものを担当している。現代社会が抱えている様々な問題に関心を持ち、理解を深めることを目標とした授業である。大学受験の小論文などでも、社会問題に関する意見を問われることがあり、そのための予備知識という意味もある。もちろん、日本だけでなく世界情勢も取り上げている。「アベノミクス」「TPP」「大震災からの復興」などなど、基本的に1回につき一つのテーマについて重要なポイントを確認し、意見交換などに発展させるという形式だ。


ちなみに、ここは大学進学を目指す学生のクラスであり、「それなら、これだけは知っておいてほしい」と期待しつつ私も準備している。 が、その思いは、残念なことに失望に変わる。「最近、気になったニュースは?」と聞いてみても、「ニュースを見ていません」と即答する学生が少なくない。このクラスに限ったことではないが、「うちにテレビがありませーん」と、テレビがないことを免罪符にしようとする学生が実に多い。


特に彼らが知らないのは、「自分の国以外」のことだ。せっかく日本に住んでいるのだから、もっと日本事情にも興味を持ってほしいものだが、彼らが素早くキャッチするのはゲームやアニメのこと。それ以外には疎い学生が多い。いや、もしかしたら、ヘタに「知っています」と答えて、あれこれ質問されるのは面倒だと考えているのか…とも思うが、やはり頭の上に飛んでいる無数の「?」マークを見ると、知らないようである。


さて、そんな彼らの興味を引き出す手段として、ウォーミングアップの時間を設けた。ここ1週間の新聞の見出しを10ほど挙げたプリントを用意。その中で自分が知っているものがないか、自由に言わせるのである。トピックは、政治・経済から文化、スポーツまで。すると「これなら答えられる」という反応の学生が出てくる。アメリカ大統領選、ノーベル賞、イクメンなど、少しでも興味を持たせることができれば、解説もしやすいというもの。まあ、それなりの効果はあったようだ。


だが、授業の目標にはまだ遠い。先日も、学生に自分の国のトップはどんな人か聞いたが、「わかりません」とのこと。なんと、同国の学生全員が「名前も知りません」とのことだった。ぜひとも、海外の日本人留学生が「今の日本の首相?知りません」と答えていないことを祈りたい。