日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.32 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.32 テスト日和

2016/07/04

6月上旬のある日。天気は快晴ながら、この季節にしてはカラッと爽快な一日だった。午前の教室内は、ふだん気になる私語も一切聞こえず、学生たちは必死で問題と格闘している。空気の入れ換えに、と少し開けた窓から、かすかに外の生活音が聞こえてきた。実に平和な時間だ。


以前、午前クラスの選択授業を、ここで取り上げた。その時は、担当した『演劇で学ぶ日本語』について書いたのだが、それは卒業シーズンの特別な内容で、今の時期は日本語能力試験や日本留学試験対策といったものも多い。学生にとっても、真剣にならざるをえない時期なのだ。


そんな試験対策の中で、学生たちが苦戦する相手といえば、間違いなく読解問題だろう。特に、日本語能力試験の読解問題は「鬼門」と言っても過言ではない。聴解などは高得点だったものの、読解で点が取れなかったばかりに、あえなく不合格…というケースも少なくない。最も難しいN1ともなると選択肢にもクセがあり、日本語教師でもうっかり不正解、ということもあり得るくらいだ。悔しいが、事実である。


そして、読解ほど「漢字圏」と「非漢字圏」の間に、ある種の不公平感が漂うものもないだろう。漢字圏の学生なら、たとえ細かい内容は把握できなくても、漢字の意味がわかるがゆえに「だいたい」で解けてしまうのである。その「だいたい」がけっこうな高得点を叩き出したりもする。その一方で、非漢字圏の嘆きが痛いほど伝わってくる。「なんとかして~」という叫びも聞こえるが、何もできない。教師は非力である。


今期、私が担当したのはN2だったが、冒頭のシーンは、最後の授業で実施した期末テストでの光景。終了と同時に解答用紙だけ集めて、すぐに授業内で答え合わせをすることになっている。非漢字圏の学生に若干の肩入れをしながら、心の中でみんなにエールを送っていた。 

 

さて、終了後の答え合わせ。すでに表情は「自信あり組」と「自信なし組」に分かれてはいるが、心配無用。学生たちは、1問正解するたびに、宝くじにでも当たったかのように無邪気に喜んでいる。特に非漢字圏の学生ほどリアクションは大きい。こうして、笑顔で授業は無事終了。あとは、本試験の結果を見て、彼らに笑顔が咲くことを祈るのみである。

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