日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.39 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.39 ああ人間模様

2016/10/24

教壇からの見晴らしは、学生たちが考えている以上に良好である。学生が「こっそりやった」つもりの悪事でも、こちらがすかさず「授業中に、ダメですよ」と指摘すると、「えっ、バレた?」と驚いた表情をする学生もいる。こちらからすれば、「なぜ見えないと思ったの?」と聞き返したくなるくらいなのだが。当たり前のことだが、授業は教師と学生が向かい合って進めるため、そこから様々な人間模様が見えてくるのだ。


教室の座席は、クラスによって決め方が違う。「お好きにどうぞ」と学生に選ばせているケースもあれば、週に1回ペースで席替えを実施する場合もある。前者の場合には、ほとんど固定している印象で、それぞれ気の合う仲間と近くに座っているというパターンが多い。暗黙の了解で、なんとなく「Aさんの隣はBさんの席」といった空気が定着するのだ。中には、遅刻してしまって「自分の指定席」に先客がおり、しぶしぶ空いている席に座るというケースも。その時の「しぶしぶ」の表情まで手に取るようにわかるから面白い。一種のジェラシー、といったところだ。


さて、若者たちが日々顔を合わせていると、当然ながらカップルとなるケースも考えられる。始めは全く別の席に座っていた二人が、いつの間にか隣同士になっていて驚かされることもある。仲がいいときはいい。交際をきっかけに相手に触発され、お互い切磋琢磨して成績向上、見事に二人揃って目標達成などということもあり得る。まあ、希ではあるが。


問題なのは、ケンカした場合である。プライベートの険悪ムードをそのまま教室に持ち込み、教室に不穏な空気を漂わせる。だが、翌日にはケロッと仲直りして隣に座っていたりするのだ。若さのなせるワザか。

 

そんな中、数年前の卒業生に、実に「大人な」二人がいた。彼らは同じクラスに在籍していた公認カップルだが、授業中は一度も隣に座ったことがない。公私混同を一切しないのだ。実は国にいたときからのカップルで、共に目標を持って日本へ留学。クラスメートも彼らには一目置き、温かい目で見守っていた。目的を見失わず切磋琢磨して勉学に励んだ結果、揃って早々に志望校に合格。「あっぱれ!」と、心から拍手を送りたくなる二人だった。まるで爽やかな青春ドラマを最終回まで見届けたような満足感。あんな「人間模様」なら何度でも見てみたいと思う。

39