海外通信パラグアイ編第11号 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

最終号 地域と共に学ぶ移住学習を根付かせよう Vol.2

2012/09/25

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市川 伴武 先生
パラグアイ ピラポ市
(JICA派遣)

男・日本語教師 パラグアイで『(いき) 』る! 第11号
~地域と共に学ぶ移住学習を根付かせようVol.2~
 

さて、前号に続いて、「地域と共に学ぶ移住学習」についてです。前号に述べたような、「日本語の不必要」と「歴史を知らない子ども達」というような大きな背景を踏まえ、以下のような移住学習の目標を作成しました。

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移住当時のおやつ作り

1. 移住の歴史を知り、パラグアイと日本の両方のルーツを持つ日系人としての「自分自身」について考えてもらう。
2. 1世の方を通じて、移住当時のことや当時の歴史的背景を後世の子どもたちに伝える。
3. 移住学習を通して、家族や地域の方とコミュニケーションをする。
4. 移住学習を通して、日本語学習へのモチベーション(やる気)を高める。

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どこにでもあるイモからおいしいおやつが!

目標を作るうえでの大きなポイントは、上述の二つの背景に加え、

ピラポ日本語学校を卒業したら、もう同じ世代の日系人だけでまとまって移住について学ぶ機会はないこと。
まだ1世の方がお元気だということ
地域性の高いピラポ市の特徴を活かし、学校内だけに収まらない活動
日本語学校としては、何より日本語を学ぶモチベーションになってほしい。

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市長にインタビュー

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日本人会の方にインタビュー

という状況があります。

この移住学習は継続的に小学4年~中学3年までのクラスで6年間実施します。こういった計画的かつ継続的な移住学習を実施している学校は中南米を探してもなかなかありません。パラグアイの中でも日系移住地の全校が注目している活動です。

6年間ありますが、学年ごとにも目標が設けられています。

■小学4年
・自分の家族にインタビューすることを通して、日本を知り、より親しみを持つ。  
・移住当時のおやつを作ることを通して、現在との違いを知る。

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農協の方にインタビュー

■小学5年
市役所、農協、日本人会の方にインタビューすることを通して、自分の住んでいる国や自分の住んでいる町について学ぶ。

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1世の方にインタビュー

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1世と3世を2世の先生がつないだ授業

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2012年は地元の先生が授業をしています

■小学6年
1世の方に話を聞き、移住の歴史や日本の歴史的背景を学ぶ。

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移住資料室で説明を受ける

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簡易竈で米を炊こう!

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移住資料室で道具の使い方を学ぶ

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五右衛門風呂も自分達で沸かしたぞ!

■中学1年
移住資料館を通して、移住当時の暮らしを学び、体験する。

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地域の踊りをみんなで踊る

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家族年表を発表

■中学2年
「早いものだね五拾年」の歌詞を読解したり、自分の家族の年表を作ったりすることで、現代までの変遷を知る。

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地元の青年が日本出稼ぎの様子を説明

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年が近い青年に実際の日本を教えてもらいました

■中学3年
日本人や地元青年との交流を通して、パラグアイと日本の両方のルーツを持つ日系人として、自分自身の考えを持つ。

各学年の重要ポイントは以下のようになっています。
小学4年:「日本」を知る。
小学5年:「パラグアイ&ピラポ」を知る。
小学6年:1世の方と話し、「当時の様子」を知る。
中学1年:「移住当時(昔)の暮らし」を知り、体験する。
中学2年:ピラポ移住地と「家族の歴史」を知る。
中学3年:「日系人としての自分」を考える。
というふうに段階的に最終目標へ向かって学んでいくようになっています。

この移住学習を立ち上げた2011年度の1年は私が授業を全て行い、授業の様子を全てビデオ撮影し、資料、成果物、インタビュー音声データなど、残せるものは全て記録しました。子どもが書いた成果物なども全てスキャンし、紙ベースとデータ、両方の形で保存し、自分が帰国後も地元の先生方でやっていけるように形を残しました。実際に2012年度は私が帰国する6月までに引継ぎをして、地元の先生方で実施できるようにし、実際に移住学習をするときは地元の先生に授業はお任せして、オブザーバーとして教室に入ってサポートしていました。

そして、もう一つ大切なことは移住学習を学校だけで終わらせず、実施したら、地域のスーパーや日本人会の事務所や病院などに写真入の実施報告を掲示し、地域の皆さんに知らせるようにしたことです。これによって、地域の皆さんに学校がやっていることが見えて、安心できることと思います。その他、地域の高齢者茶話会を巡回し、移住学習の実施報告も行いました。

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1世の皆さんに移住学習実施報告

この移住学習を実施するに当たり、たくさんの人にご協力いただきました。地域の子ども達のために、一肌脱いでくださる方がこんなにたくさんいたのだと思うと、胸が熱くなりました。なんて、ここの子ども達は幸せなんだろうと。地域で作りあげていく学校、本当に素敵です。この「地域と共に学ぶ移住学習」がずっと続いていきますように・・・。