No.52 プロの証し | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.52 プロの証し

2017/05/08

先日、プロの声優による録音現場に立ち会う機会があった。私が執筆に関わった本の見出し語と例文を音声に起こすためである。彼らの声の美しさは言うまでもないが、みごとな標準アクセントで次々と例文を読んでいく。実は、始める前に出版社の方から「発音に何か問題があったら言ってください」という言葉をもらったのだが、その「問題」を見つけるのが至難のわざだった。果たして自分が抱いた「違和感」が、本当に間違いなのかどうかに自信が持てないのである。母語ながら、発音のプロへの道のりはまだ遠いと痛感した。


その立ち会いをしながら、20年近く前、台北での「録音風景」を思い出した。私が教えていた日語補習班でオリジナルの教科書が作られた。併せて音声テープを作成することになったのだが、プロに頼む予算はない。そこで、専任講師に役割が回ってきたのである。だが、東京出身者はごく僅かで、私を含めてほとんどが地方出身者。ゆえに、怪しいアクセントがあっても「ま、いいんじゃない」という空気で録音を進めていたように記憶している。結局、その音声テープの完成版は一度も聴いていないが、ちょっと聴いてみたい気もする。今や音声はウェブサイトの時代。「テープ」という響きにも時代を感じる。


そんな時、タイムリーにもテレビ欄で興味深い番組を見つけた。地方出身のアナウンサーを集めて、その発音が正しいかどうかを検証するといった実にシビアな内容だ。私もテレビの前で真剣にチャレンジしてみた。「2月」「パーカー」など単語の正しい発音を2択で選ぶ問題で、プロのアナウンサーたちが面白いほど「不正解」を連発していた。しかし、私もけっして笑えない。半分近くが不正解という、実に不甲斐ない結果になってしまったのである。


さらに同番組で「カタカナ表記」に関しても厳しい結果を突き付けられた。例えば「メリーゴーランド」は「メリーゴーラウンド」が正解。さらに「ナルシスト」は「ナルシシスト」だということを初めて知り、思わず辞書で確認してしまった。「エンターテイメント」が正しくは「エンターテインメント」であることは知っていたが、実は、それを知ったのもつい1年前のことである。


思えば、日本語教師として年数をかなり重ねてしまった。「知らなかった」がこれ以上増えないように、日本語にもっと「敏感」にならねばと思う。余談だが「くまモン」の呼び方にも2通りある。これに関しては「正解」は特になく、在京の各テレビ局でも対応が異なるらしい。ちょっとホッとする話だ。