No.138 思わず「ふふっ」 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.138 思わず「ふふっ」

2021/02/05

1月からの授業は特に問題もなく進んでいる。ウイルス感染対策のため、オンライン授業に対面授業も挟みながら…といった感じであるが、慣れてきたとはいえオンライン授業には特有の緊張感があるような気がする。「ネットやパソコンの不具合が起きはしないか」という意味での緊張感もあるが、その他に「カメラの向こうの学生の様子を把握しにくい」というのも大きな理由なのだろう。


そんなオンライン授業で、思わぬ「ふふっ」が小さな癒しになることがある。学生に質問して、意表を突く答えが返ってきたときである。あるクラスの授業初日、こんなことがあった。このクラスは昨年末に入国した学生が多いクラスで、果たして彼らが、初めて日本で迎えた年末年始をどう過ごしたのか妙に気になった。全員にその辺りのことを聞いてみたところ、「ずっと部屋にいました」という学生も多かったが、ある学生は「部屋の家具をいろいろ買いました」と嬉しそうに言う。話の流れで「部屋はどれくらいの広さなんですか」と聞いてみた。ワンルームや1Kの部屋を勝手に思い浮かべながら…。と、返ってきたのが「2LDKです」。思わず「えっ、一人で?」と聞き返してしまった。「そうです」という学生の声がとてもクールに私の耳に響き、驚いた自分に笑ってしまった。


また、こんな学生もいた。「お墓参りに行きました」。自分の耳に自信がもてず、「おハカ?」「はい」「おハカって、亡くなった人が入るところ?」「はい」というやりとりを経て、彼女が国に住む親友の代わりに、日本のある著名な作家のお墓参りに行ったのだということがわかった。親友がその人物の作品が大好きで崇拝してやまず、「ぜひ私の代わりに!」と乞われたらしい。その著名人は誰かと聞いてみたが、名前の日本語読みがわからない、とのこと。「太宰治か、はたまた三島由紀夫か、それとも…」などと考えていると、チャットで全員に答えが回ってきた。「三木露風」。完全に意表を突かれて、数秒考えた。おそらく「親友」は彼女と同年代だろう。その若者が三木露風を崇拝し、日本に行く友に自分の思いを託した。そして、ミッションは果たされた…という展開は、意表の連続だ。と同時に、童謡『赤とんぼ』の作者であることくらいしか知識のない自分を恥ずかしく思った。


さらに、別のクラスの授業で、学生への質問中に「あ、先生、すみません。宅配便が来ました。出ていいですか」と言われ、仕方なく許可すると、ほどなくして学生が戻ってきた。何が届いたのかと単なる好奇心で聞くと「チーズケーキです」という答え。これもまた予想外で笑ってしまった。


そして、つい数日前のこと。別のクラスで「リサイクル」について話し、男子学生にどんなリサイクルをしているか尋ねてみた。「ペットボトルを…」ここまでは予想通りだった。が、続きが違った。「…切って、水を入れて花を飾ります」。あくまで真剣に答える彼に、ふっと心が癒された。



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