No.207 もう一つの「夢」 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.207 もう一つの「夢」

2026/05/18

「子どもの頃の夢は?」と聞かれたら、私は「マンガ家」と答えている。得意かどうかは別として、何かを書くことが好きだったのだ。小学生の頃には、思い立って推理小説もどきの文章を書いたりしていた。もちろん、今も残っているということはないが、もし読んだら、あまりの稚拙さに赤面するはずだ。そんな「夢」なのだが、先日、そういえば自分にはもう一つあったことを思い出した。

4月期の選択授業のこと。私は「N1合格者聴解」を担当しており、試験対策ではなく生教材を使用している。動画やラジオ番組など、学生が興味を持ち、意見交換なども進めやすい内容だ。そんな授業の2回目は、「ラジオ投稿を聞く」と題し、某ラジオ番組が教材で、一般リスナーから寄せられた「忘れられない言葉」について聞いた。有名なパーソナリティのおしゃべりは聞きやすく、投稿も面白い。授業の最後には毎回、各自シートにまとめたものや感想を書いて提出することになっている。その回は特別に「リスナー気分」で、それぞれ「忘れられない言葉」も書いてもらうことになった。

そして、その次の回。チェックしたシートは返却し、さて今日のテーマは…という前に、私が急に「では、まず、みなさんに書いてもらった投稿を紹介しましょう」と始めると、ザワザワという気配が。残念ながら時間の関係で5、6人しか紹介できなかったが、名前は隠して「ラジオネーム〇〇さんからいただきました」と、パーソナリティ風に読むと、思い当たる学生からクスッと笑いが起きた。

中には「小学生の頃、サマーキャンプで一緒だった男の子に突然『結婚して』と言われた」という話があり、「この結果が気になりますよねぇ。で、どうなったんですか、〇〇さん?」と、当人に話を振るなど、何だか気分が乗ってきた。そして思い出した。「私、これもやりたかったんだ!」と。

それはラジオ、特に深夜番組が大好きだった中学生の頃の話だ。家でラジカセを前に「DJ」になり切り、洋楽を中心に好きな音楽を紹介しながら、おしゃべりを録音した。そして、再生ボタンで自分の声を聞いた瞬間、予想とはまったく違う声に「これは無理だ…」と夢を断念したのだった。

ただその後、数十年という月日を経て、ウラジオストク赴任中にDJならぬナレーターをやらせてもらったことがある。NHKの企画で、なんとほぼ一日、現地から日本向けにラジオ番組(日本語)が放送されたのである。その際の「ウラジオストク案内」の原稿読みを、他の日本語教師と2人で任されたのだ。スタッフが見守る中での原稿読みは緊張したが、新鮮だった。しかし、ショックでもあった。もう一人のナレーションがあまりに完璧だったのである。スタッフの方たちは気を遣って「二人ともすごいですね」などと言ってくれたが、いやいや、そこに大きな差があることは明白だった。とはいえ、今こうして「話す」仕事を続けているのだから、夢は半分叶ったのかもしれない。

もう一つの「夢」