No.128 もう一つの「夢の国」 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.128 もう一つの「夢の国」

2020/07/18

映画館、美術館、テーマパークなど、多くの施設が再開されている。もちろん、新しい生活様式に沿ったルールを設けてのことだが、再開を待ちわびた人々にとっては、まさに涙モノの朗報である。舞浜にある「夢の国」に多くのファンが駆けつけたのも記憶に新しい。


私にも、ある朗報が届いた。上野動物園の再開だ。緊急事態宣言を受けて、2月29日から休園していたのだが、私がその前に訪れたのは2月7日に遡る。6月23日に再開園とのことだったが、少し落ち着いた頃に…と、7月上旬の平日に訪れることにした。実に5か月ぶり。現在は「密」を避けるために、入園自体が予約制となっており、私も「予約戦」に挑んだ。開始時間、満を持してパソコンに向かったものの、入力にもたつき、かつ熱狂的なファンの勢いに負け、第一希望の時間はあえなく配布枚数終了。次に挑んだ最終2時45分の回をゲットした。


マスク着用は当然のこと、やはり一番の注意ポイントは、ソーシャル・ディスタンスである。大人も子どもも「一刻も早くシャンシャンたちに会いたい」という逸る気持ちを抑えて、しっかり距離を保っている。持参した予約券、代表者の身分証明書(写真付き)を提示し、別途入場券を購入してようやくゲートを超えると、いやが上にも気持ちは高まる。そのせいか、パンダ舎に入るまでに、同行した姉に、何度か「ちょっと、ちゃんと距離とって!」と、指摘されてしまった。いつの間にか、心身ともに前のめりになってしまっていたようである。


そして、ついにご対面。実は、あまりに久しぶりで「感動して泣いてしまうかも」と秘かに思っていたのだが、その場に行ってみると、自然と笑顔しか出てこない。ファミリーはそれぞれの部屋でお食事中。休園中に3歳の誕生日を迎えたシャンシャンは、さほど大きくなっておらず、愛らしさ満点の背中を見せ、一心不乱に笹を食んでいた。現在は、観覧がスムーズにいくように、パンダ舎での写真撮影は禁止。元気なファミリーの姿をしっかりこの目に焼き付け、お隣さんの象たちにも軽く挨拶し、大きな癒しをもらって、動物園を後にしたのであった。


国内での移動が解禁されたとはいえ、「不要不急の移動は控えたほうがいい」という暗黙の自粛は続いている。東京を中心に感染者数の報道に敏感になっている。学校でも変わらず感染防止に努めており、教師としても緊張感をもって授業に臨んでいる。そんな中で訪れた、久しぶりの動物園。それは、私にとっての「夢の国」であった。スッキリしない気持ちは、梅雨空だけではない。まだまだ「闘い」は続く。今こそ、癒しが必要だ。年間パスポートも手に入れ、準備は調った。今はまた、次なる「予約戦」に向けて、静かに闘志を燃やしている。



essay2017001