No.47 「男」と「女」
2017/02/27
日本語教師には「タフであること」が求められる。体力以上に必要なのが、精神的なタフさである。たとえ授業がイメージ通りに進まなくても、失敗しても、いちいち落ち込んでいるわけにはいかない。素早い切り替えが肝心だ。特に、卒業シーズンを控えた学期は、教師に更なる忍耐強さが求められるときである。授業における学生の向学心と集中力が、目に見えて低下するからだ。
すでに進路が決まっている学生は、安心感から卒業を前に「心ここにあらず」になり、まだ決まっていない学生は焦りから「授業どころじゃない」といった重い空気をまとっている。もちろん「登校したからには、しっかり勉強します」という表情の真面目な学生もいるが、残念ながら決して多くはない。
教師が時間をかけて準備したからといって、その気持ちが相手に伝わるかどうかは予測できない。大切な話をしているのに全く反応がなかった時の「報われない」思いは何とも言えない。が、反対に学生たちから予想以上の反応があった場合は、心の中で小さくガッツポーズをして素直に喜ぶ。その繰り返しだ。
さて、タイトルの「『男』と『女』」である。今期は選択授業で「ニュースで学ぶ日本語」という、生のニュース番組を教材にしたものを担当した。同じ曜日の選択授業にはもっと楽しそうなものがあったにも関わらず、あえてニュースを選んだ学生たち。さぞ熱心な学生たちかと思いきや、それはまた別問題だ。「家ではニュースを見ないから」「とりあえず選んでみた」といった気軽な感じで、特に興味がある分野もなさそうだ。ならばと、政治、経済、事件・事故など…いろんな分野のニュースを、語彙の説明とともに取り上げていった。
その中で、事件・事故のニュースで避けては通れない関門がある。「男」と「男性」、「女」と「女性」の使い分けである。どちらも言葉としては知っていても、その違いを知らないケースも多い。まず学生に「何が違うと思うか」を聞いたところ、「自分が知っている人は男、知らない人は男性」という答えが返ってきた。何人かに聞いた後、犯人と思われる人物は「男」、それ以外は「男性」と使い分けられている旨を説明すると、学生から「あーっ!」という歓声があがり、いっせいにメモを取り始めた。心の中でガッツポーズした瞬間だ。
その後、学生たちが日常的にニュースをチェックしているか否かは不明である。ただ、頭の片隅にでも「授業で学んだ知識」として残っていればいいなと思う。そんなふうに考えるだけで、教師は少しだけ「報われる」のである。