No.48 音楽のチカラ
2017/03/13
あるクラスの授業後。中国の学生たちが、母国語で何やら楽しげに打ち合わせをしていた。聞けば、数人でカラオケに行く約束をしていると言う。日本での生活も長くなり日本語の曲も歌うのか、と思ったが「いいえ。中国の歌がたくさんあるカラオケです」とのこと。まさに受験シーズンも終盤。まだ進路が決まっていない学生もいる。なかなか思うようにいかない外国でのストレスを抱え「思い切り歌って、ストレスを発散しよう!」といったところのようだ。
物価が高い日本においては、カラオケは比較的低料金で楽しめ、しかも進化している。留学生たちにとっても貴重な娯楽と言える。大声で歌うことで気持ちを切り替え、また前向きに頑張ってほしい。そして、せっかく日本で暮らしているのだから、ぜひ日本の曲もレパートリーに加えてほしいものである。
考えてみると、日本に留学している学生よりも、海外で日本語を学んでいる学習者のほうが「日本の曲が歌える率」が高いかもしれない。日本文化の一つとして、授業や現地のイベントで紹介されることが多いからである。以前は『恋人よ』『北国の春』などがアジアの国々で歌われ、その後はKiroroの曲などがスタンダードになっている。私もベトナムで『長い間』を取り上げたことがあるが、歌詞の内容がわかりやすいこともあって、学習者にも好評だった。どうか、何年経っても彼らにとって思い出の曲であり続けていることを祈りたい。
ところで、日本語学習者だけでなく、全国民に愛され歌い継がれている日本の曲もある。ロシアにおける『恋のバカンス』もその一つ。1960年代の懐かしいザ・ピーナッツの大ヒット曲だ。覚えやすいメロディで日本でも度々カバーされているが、実はロシアでも驚くほど人気がある。何でも、ソ連時代に来日した国営放送の特派員がこの曲に惚れ込み、母国で広めたとのこと。あまりに自然に溶け込んでいて、これが日本の曲だと知らないロシア人もいるほどだ。
私自身、現地で暮らしている間にロシア人が歌う『恋のバカンス』を何度も聴いた。ある時はロシア語で、またある時は日本語で。様々なイベントでも人気演目の一つで、キレイな女の子たちが見事な日本語で熱唱するのであるが、実は彼女たちは全く日本語が話せない。もはや、時代も言語も超え、異国で一つの芸術となった日本の名曲。日露の架け橋として果たした功績は大きい…と書いているうちに、私も久しぶりにカラオケに行きたくなった。レパートリーも増やしたいが、まずは『恋のバカンス』を思いきり歌いたいと思っている。