No.55 「春」を一枚
2017/06/19
学生による写真コンテストが開かれた。会場は校舎の1階エントランス。3月上旬まで秀麗な雛人形が飾られ、七夕が近づくと竹と短冊が用意される、そのスペースである。実は、作品を募集していたことも、すでにコンテストが始まっていたことも知らずにいたのだが、ある日、開催のお知らせとともに、講師にも「投票権」があると知り、さっそく一票を投じるべく帰りに寄ってみた。
エントリーは11作品。学生のクラスは1組から上級クラスまでさまざまだ。留学生の「コンテスト」というと、日本語力を問うものが多くなりがちだが、その点、写真は日本語力無用。心に映った風景を画像に託せばいい。感性で勝負である。「趣味は写真を撮ることです」という学生も少なくない。まさに、そういった学生たちにとって待望のイベントだったと言えるだろう。
さて、「有権者」として作品を前にした私だが、すぐに迷路に迷い込んでしまった。11作品、どれも甲乙つけがたいのである。都電と桜、桜のアーチの下を走る自転車、一面に咲く色とりどりのチューリップ、高いビルを背景に広がる都会の緑…。中には風景ではなく『Go on a picnic』と題した、ピクニックのお弁当が主役のスタイリッシュな一枚もあった。一輪のタンポポをアップにした作品も、素朴ながら生命力を感じた。政治の選挙では候補者の名前を前に悩むことなどない私だが、しばし迷った結果、他の写真とはイメージが異なる夕日を写した作品に投票。大仕事終え、爽快な気分で帰途についた。
後日、見事1位に輝いたのは『富士芝桜まつり』。偶然、私が担当しているクラスの女子学生の作品で、一面を埋め尽くす紫やピンクの花のコントラストが美しく、かすかに富士山が見える。私はこの祭りを見たことはないが、その光景を目にしたときの彼女の感動が、ダイレクトに伝わってくる作品だった。そして、彼女にはその腕を発揮する次のチャンスが早々に訪れた。5月末に行われた運動会のカメラマンで、その作品も校内の一角で展示されている。
運動会といえば、こちらも日本語力とは関係なく注目を集めるチャンスがある。そこで光るのは、けっして運動能力だけではない。運動が苦手という学生も応援に回ることで参加、貢献できる。実際、学生たちに感想を聞くと、運動が得意も苦手もなく、笑顔で「楽しかった」と口を揃える。ふだんは目立たない男子が、別人のような活躍を見せて一躍ヒーローに…などという話は全く聞かないが、それぞれの「名場面」は今も心の中に残っていることだろう。