No.59 勝手に親善大使
2017/08/21
夏休みが近づいたある日。午後の授業が終わって戻ってみると「先生、〇〇さんから電話が入っています」と告げられた。学生の名前を言われても、すぐにはピンとこない。担任をしている先生なら卒業生からの連絡も珍しくないだろうが「ホントに私?」と確認したほどだ。が、しばらくしてわかった。フルネームで言われたのでわからなかったが、ニックネームですぐに3月の卒業生の顔を思い出した。彼は音楽系の専門学校に進んだはずだ。
「お久しぶりです」に始まり、卒業後の近況をあれこれ聞いていると、しばらくして彼が「ところで…」と本題に入った。聞けば、専門学校が夏休みに入り、ちょっと旅行したいと思っているとのこと。「たしか、先生は新潟出身ですよね」と言われ、授業で自分の出身地の話をしたことを思い出した。「新幹線もあって便利だし、ぜひ機会があったら行ってみてください」などと話した記憶がある。それを覚えていてくれるとは、ちょっとした感動である。続けて「どこかおススメの場所はありませんか」と聞かれた。本来なら、ここでポンポンと候補地をあげたいところだが、ハテと考えてしまった。冬なら雪に関連した観光地もあるが、夏というと初めての人にどこを勧めたらいいだろう。
人も土地も気に入るかどうか「第一印象」がカギで、責任重大だ。すると「観光地は興味がなくて、田舎でのんびりしたいんです」とのフォローが入る。自分が行ったことのない場所を勧めるのもナンであるし、それならと浮かんだのが、数年前に訪れた「十日町市」だった。コシヒカリの産地として知られ、日本有数の豪雪地帯。雪まつりには全国から多くの人が訪れる。観光客にもオープンな土地柄だと聞いたことがあり、たしか芸術祭なども開かれているはずだ。学生が現地の人たちと和やかに語らう様子が想像できて、ほっとした。
この7月、訪日外国人の数が月間268万人と過去最高を記録したそうだ。訪日が初めての観光客であれ、日本で暮らす外国人であれ、これからは大都市や有名な観光地だけではなく「田舎でのんびり過ごしたい」という人も増えるだろう。そんなときこそ、地方の魅力をしっかり伝えられる「プレゼン力」が必要になる。「勝手に」ではあるが、私も親善大使になりたいと思っている。
果たして、電話をくれた卒業生はどんな夏休みを過ごしただろうか。私の「プレゼン」が成功したかどうかはまだ不明だが、お土産話を聞けたら嬉しいと思う。まだまだ駆け出しの親善大使。やるべきことは山積している。