No.63 おもてなし考 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.63 おもてなし考

2017/10/16

あの「お・も・て・な・し」で、東京オリンピック開催が決定して早4年が過ぎた。決定当時は「7年あれば余裕」などと思っていたのだが、気がつけば2020年の夏まで3年を切ってしまった。新国立競技場の件も含めいろんな問題はあったが、とりあえず準備も着々と進んでいることを期待する。


相変わらず、東京は多くの外国人であふれている。街でガイドブックや地図を手に目的地を探している観光客を見ると、こちらから声をかけることはないが、「何か質問されたら教えてあげよう」と心の準備をしつつ、わざと少しスピードを落として傍を通り過ぎてみたりする。これは、私なりの「おもてなし」である。残念ながら、これまで実際に頼りにされたことはないのだが。


先日、久しぶりに自宅最寄り駅から渋谷まで都営バスに乗って驚いた。車内案内の画面が急激に進化していたからである。以前は次のバス停が表示されるだけだったが、現在は4つ先のバス停まで一目で把握できるようになっている。しかも、日本語のほかに英語、中国語(簡体字)、そしてハングルが順次表示され、電車の乗り換えなども教えてくれる。これなら、前もって降りる準備がしやすく、その路線に乗り慣れていない乗客でも安心だ。ちょっとした「番組」を見ているようで、思わず体を乗り出して見入ってしまった。


中でも私が最も感動かつ感心したのが、時おり表示される「筆談具あります」というメッセージ。利用者からのリクエストなのか、都営バスのアイディアなのか不明だが、見ただけで何だかやさしい気持ちになれた。外国人向けの多言語対応だけではなく、全ての利用者へのさりげない「おもてなし」を感じる路線バス。これは、世界に誇れるサービスなのではないかと思う。


ところで最近、「日本円」に関してちょっと話題になっていることがある。と言っても、円安などではない。主役は「五円硬貨」。「日本の紙幣と硬貨の中で、五円硬貨だけに算用数字がない」という問題だ。たしかに、五円硬貨にあるのは「五円」「日本国」そして「製造年」のみ。漢字がわからない外国人にしたら「いくら?」となってしまう。「5」がないのは特に理由はないらしいが、日本人の自分が今まで気づかなかったことにショックを覚えた。


結局「色やデザインがきれいだから」と、お土産として持ち帰る外国人観光客も多いらしい。期せずして、日本と世界との「ご縁結び」となった五円硬貨。その存在も、偶然が生んだ日本の「おもてなし」かも知れない。