No. 75 春が来た | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No. 75 春が来た

2018/04/05

冬が長く厳しいほど、春が運んでくる喜びは大きい。そう実感したのは、ロシアで暮らしているときだった。真冬には氷点下25度にもなるウラジオストクの人々は、春の気配にも敏感だ。2月には「マースレニツァ」と呼ばれる古くからの祭りが行われ、ブリヌィというロシア風のクレープを焼いてみんなで食べ、冬の象徴である案山子を燃やしたりして、陽気に楽しく春を祝う。日本人が「春の訪れを待つ」としたら、ロシア人は「待ちきれずに迎えに行く」といったところだ。子どもから老人まで広場や公園などで憩うのだ。


そんなロシアと比べれば…という話だが、今年は日本もかなり寒さが厳しかった。本格的な冬が始まる前、暖かい国から来て初めて日本で冬を迎える学生に聞かれることがある。「東京の冬はマイナスになりますか」。この冬の前にも聞かれたのだが、私は自信を持って答えた。「たまーに零度近くになることはあるけど、マイナスになることはほとんどないですよ」。さらに何の根拠があってか「大したことないから、大丈夫」とまで言った。


結果として1月下旬の東京は、なんと8日連続の冬日となり、48年ぶりにマイナス4度を記録した。これは、大丈夫ではない寒さである。気温の件だけではなく、降雪量や降雨量など、何かと「こんなこと初めて」という声がニュースで流れ、「〇年ぶり」「観測史上初」といった言葉にも慣れてしまっているのが怖い、と思う今日この頃だ。今まではなかったからと言って、安易に「大丈夫」などと言ってしまうのは考えモノだと反省した。


さて、そんな冬を経た3月5日、多くの学生が卒業式を迎えて巣立っていった。とは言っても、全員がその日でサヨナラではなく、翌日からはまだ卒業しない学生、卒業したいが進路が決まっていない学生などによるクラスが再編成され、2週間ほど授業は続いた。同じ学校で勉強しながら、それまで机を並べたことがない学生たちも、この2週間はしばしのクラスメートとなる。


授業初日は、それまでのクラスで一緒だった学生同士で近くに座り、何だか表情が硬い。教室内は良くも悪くも静かである。それが1日経ち、2日経つうちに、何となくクラスらしくなっていくのが面白い。そんな中で進学や就職が決まった学生が、一人、二人と嬉しそうに去っていく。ある意味、日本語学校では春の風物詩のような光景だ。こうして本格的な春が来て、それぞれの新しい生活が始まる。ロシアからも、春の知らせが届いている。