No. 77 小さな郵便局 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No. 77 小さな郵便局

2018/05/08

今さらながら気づいたことがある。郵便局が好き、ということだ。用事のついでに切手コーナーも必ず覗く。四季折々の風物詩や、キャラクターものの切手を見ては、「こんなに使うかなあ」と思いながらつい買ってしまう。さまざまなおにぎりをデザインした三角の切手を見つけたときは、改めて日本の切手の多彩さに感動した。だが、郵便局に惹かれる一番の理由は、郵便局に流れる「世界とつながっている」という空気なのだろう。どんなに田舎の郵便局からでも世界に届く。なんだかロマンを感じるではないか。


台湾の郵便システムは日本とほとんど同じで、とても迅速で信頼できる。先日、押し入れの箱を引っ張り出して探し物をしていたところ、18年ほど前に台北で買った切手シートが出てきた。未使用で『西遊記郵票』というそれは、『西遊記』の名シーンがデザインされた4種類の切手と、物語のあらすじが中国語と英語で書かれている。結局、肝心な探し物は見つからなかったが、偶然再会したこの切手を永久保存版として大切にしたいと思う。


さて、私にとって最も印象に残っている郵便局は、台北ではなくハノイの外れにあった。日本語を教えていた学校近くの、とても小さな郵便局。広さわずか15平米ほどの空間にカウンターと机が2つ。備品はペン類、切手の入ったファイル、重さを量るものくらいしか見当たらない。ほぼオープンエア。よく言えばシンプル、率直に言えば殺風景な郵便局には、多いときで2人の局員(らしき人)がいた。荷物は街の中心の本局まで行かなければ出せないが、ハガキや封筒ならそこで用が足りたので、ときどき利用したものだ。


ある年の春節前のこと。私はそこから台湾の知人たちに新年のカードを送った。時は昼休み。私がカードを手に窓口に向かうと、あっという間に人垣ができた。「こいつはベトナム人じゃないが、いったい何モノだ?」といった好奇の目である。そして、封筒に書かれた「Taiwan」の文字を見つけ、何やら納得したように話し合っていた。「ニーハオ!」次の瞬間、いっせいに笑顔で挨拶をされ「タイワン」と口々に言う。やんわり「ノー! ジャパニーズ」と言ったところで誰も聞いていない。それ以降、私はその通りでは台湾人とされ、しばらくの間は局員に中国語でサービスを受けることになった。


場末感漂う、あの郵便局は今もあるのだろうか。そこから出したカードはしっかり台湾に届いていた。どんな郵便局にも、ロマンはあるのだ。