No.116 クリスマスの贈り物 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.116 クリスマスの贈り物

2019/12/24

12月になり、クリスマスが近づいてくると思い出す。ウラジオストクの冬、である。もっとも、ロシア正教のクリスマスは12月25日ではなく、1月7日。年明けには、クリスマスを挟んで最長10日ほどの休みとなる。ある年の瀬のこと、大学から「外国人の教師や留学生は集まるように」というお達しがあった。いったい何だろうと思いつつ指定された場所に行ってみると、大きなテーブルの上に、乾杯用の飲み物と一人ひとりにプレゼントが用意されていた。


手渡された箱には、メルヘンチックなイラストが描かれ、中にぎっしりとチョコレートやキャンディが入っている。「KAWAII」は日本文化が誇るキーワードだが、ロシアも負けてはいない。ソ連時代のアニメなどはそのオンパレード。見ているだけで笑顔になれる。お菓子のパッケージにも、おとぎ話に出てくる動物たちや可愛い女の子などが描かれ、スーパーでマトリョーシカがデザインされた牛乳を見つけたときは感動さえした。そんなロシアの「KAWAII」をぎゅっと集めたような贈り物に、年甲斐もなくワクワクし、粋な計らいに感激した。


その大学が先日、創立120周年を迎えた。現地で長年日本語を教えている友人が、メールで教えてくれたのだ。ロシアではモスクワ大学と並ぶ伝統を誇る大学は、あまりに規模が大きく、果たして全体がどんな組織なのか、どのくらいの学生が在籍するのか、半ば謎だった。大学というより小さな国家のような雰囲気さえあったが、日本学科はどこかアットホームで、日本学の重鎮である先生方に、とても親切にしていただいた。「120周年の式典の様子は、大学のホームページにアップされています」とURLがあったので、さっそく覗いてみることにした。


式典では、これまで大学に貢献した先生やスタッフが表彰され、学生たちによるプロ並みの歌や踊りが繰り広げられる。ロシアの民族衣装を着た美しい女性の写真もある。私自身、何度か大学主催の式典に参加したことがあり、その独特で厳粛な空気を思い出す。表彰式の写真には、お世話になった先生方のお元気そうな姿もあり、懐かしさでいっぱいになった。


そして、満面の笑みを浮かべて挨拶する、ある若い男性が目に留まった。赴任直後、私の教え子だった学生で、現在まだ30代である。歴史ある大学では異例のことだが、数年前に日本学科のトップに就任したと聞いていた。当時、まだあどけなかった顔はすっかり凛々しくなり、全体から貫禄が漂っている。ステージ上の笑顔は、まるでアカデミー賞主演男優賞の俳優のように輝いていた。「ジェーニャ、立派になったねえ…」写真に向かってつぶやきながら、しみじみ月日の流れを噛みしめる。ロシアにも、日本にも、また新たな冬がやってきた。



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