No.136 それぞれに「よい年」を!
2020/12/23
師走のある日。休憩時間が始まってすぐに、学生がスマホを手にやってきた。「週末、青山に行ってとてもきれいだったので写真を撮りました」と見せてくれたのは、通りを黄金色に染めるイチョウの葉。「きれいですよね、ここのイチョウ」と言いながら一緒に見ていると、彼女曰く「日本は、落ちた葉をそのままにしますね。きれいです。中国では掃除してしまいます」とのこと。彼女は、最近来日したばかりの学生で、東京での日々の「発見」が楽しくて仕方ないといった表情である。
他の学生からも「加湿器を買いたいんですが、先生のおすすめのメーカーは?」「自動販売機で買ったコーヒー、当たったんですけど、どこでもらえますか」などと、休憩時間のたびに日本語以外のことで、いろんな質問がやってきた。加湿器はともかく、当たったというコーヒーのプルトップには確かに「当たり」とあるが「QRコードで応募」というような説明書きが。自販機のドリンクで「当たり」といえば、ピコピコと鳴って点滅で「その場でもう1本!」しか知らない私は、学生と一緒にしばし首をひねってしまった。うまく答えられず「ごめんね」ということもあるが、とにかく学生たちの好奇心いっぱいの笑顔を見ていると、こちらも何だか嬉しい気持ちになってくる。
実は、イチョウの写真を見せてくれた学生からは、こんな質問も受けていた。「どうして日本のトイレットペーパーは、あんなに柔らかいんですか」。彼女が笑って言うには、「柔らかすぎて、たくさん使ってしまう」らしい。私も思わず笑ってしまったが「メーカーは、みんながたくさん使って、たくさん買ってくれるように、柔らかくしているのかもね」ということで落ち着いた。初めてのこと、新しいことに向き合って、それを楽しもうとする留学生たちからは、改めて学ぶことも多い。
さて、残りわずかとなった2020年を振り返ると、私にとって仕事での一番大きな出来事は、やはりオンライン授業の導入であった。日頃からアナログ人間を自称し、半ば開き直っている感もあった者からすると、オンラインでの授業はまさに未知の世界。青天の霹靂、と言っても過言ではない。4月の「講習会」で基礎を学んだ後、ときにWi-Fiの不具合にあたふたしつつ、何とか年末を迎えることができた。が、まだまだ「オンラインのほうがラク」なんて、とてもじゃないけど言えない。しばらく続きそうなオンライン授業との付き合い。とりあえず、課題は来年に持ち越し…である。
留学クラスでの私の仕事納めは、未入国で来年早々に来日予定の学生と、入国済みで隔離期間中の学生、総勢10名のオンライン授業だった。毎週金曜日に担当していた私は、最後に学生と「よい週末を」と挨拶を交わしていたが、ラストはやはり「よいお年を」である。それを伝えると、学生からも次々に笑顔と「よいお年を」が返ってきた。新たな年、彼らとの教室での対面が待ち遠しい。