No.147 夏のひらめき | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.147 夏のひらめき

2021/08/26

東京オリンピックが始まった直後のこと。私は月曜日に、全員まだ未入国のクラスを担当しているのだが、その日に導入する漢字のテーマが「勝負」で、まさに狙ったかと思うようにタイムリーな内容であった。そこで、勉強したばかりの語彙「決勝戦」を使って、ちょっとした予想をしてもらおうと思いついた。男子サッカーの決勝戦の対戦国を当ててもらおう、というものである。サッカーを選んだのは、最もイメージしやすいと考えたからだ。既に予選リーグは始まっていたが、各グループどんな状況なのかはわからないまま、とりあえずオンラインの共有画面で出場16か国を確認。「わたしは男子サッカーの決勝戦は〇〇と〇〇の試合だと思います」に、国名を入れて言ってもらった。


みんな笑顔で考えている。ブラジル、スペイン、フランスといった名前が多く挙がっていたが、中には日本を入れてくれる学生もいて、面白いことにその組み合わせは全員が異なっている。後日、多くの熱戦を経て決勝に勝ち進んだのはブラジルとスペイン。はて、それを予想した学生はいたかしら…と、残しておいたメモを見ると、1人だけいた。しかも、「サッカーはよく知らないけど」と言いながら国名を挙げていた女子である。彼女に結果を伝えると、少し驚きながらも嬉しそうに笑っていた。本来なら、ちょっとした「ピタリ賞」を渡したいところだが、オンラインではそれは無理だ。私はといえば、どちらも外れ。昔は自信のあったひらめきだが、これも寄る年波なのだろうか。


さて、8月初め、そのクラスに見学者が参加した。日本語教師養成講座の受講者の方たちである。未入国の学生にとっては、担当教師以外の日本人と話す絶好のチャンスだ。授業をいつもより少し早めに進めて、インタビュータイムを設けた。学生からゲストの2人に、好きなことを質問してもらうのだ。緊張する学生もいるため、全員質問というルールは決めず、あえて自由とした。趣味や、オリンピックについてどう思うか、日本のウイルス感染の状況など、タイムリーで鋭い質問が続く。なかなかのインタビュアーたちだ。ゲストの答えもわかりやすく、聞き取りやすく、話が盛り上がる。学生たちも、やはり「新しい風」を感じたのか、いつもの表情よりきらきら輝いて見えた。


外出自粛が続き、新しいことになかなか出会えない日々ではあるけれど、ちょっと「新しい風」を取り入れることで気分が変わる。学生だけではなく、私にとっても実に楽しい時間だった。だが、そのため何度か学生よりも前のめりに質問してしまったりして、授業後は反省しきりとなった。ところで、上野動物園で双子の赤ちゃんパンダの名前の公募が行われている。10年前の「リーリー」と「シンシン」来日後の公募でも惨敗し、「シャンシャン」の名前の公募でもあえなく落選。意地でも今回を逃すわけにはいかない。夏のひらめきに期待して、目指すは三度目の正直である。



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