No.155 もっと聞きたかったで賞 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.155 もっと聞きたかったで賞

2022/03/03

早いもので、今年も3月。日差しにも、風にも、春を感じることが多くなった。外出する際にまとうコートも、少しずつ軽くなっていく。そろそろ桜の便りも聞かれる頃だ。まだまだ気の抜けない日々が続いているものの、やはり「春」という言葉の響きを聞くだけでも、心が弾むものである。

 

2月中旬から下旬にかけて、卒業式前のイベントとして校内スピーチ大会が開かれた。もちろん、オンラインでの開催。クラスが多いため、全体を3~5クラスずつ、4回に分けての開催となった。出場者は自薦他薦を問わず各クラス2名ずつで、テーマは『私が伝えたいこと』。私は4回のうち、最後の回に、ギャラリーとして参加させてもらうことにした。その回の3クラスのうち2クラスを担当しているからである。知っている学生の発表を聞くのはドキドキもするが、楽しみも増す。

 

さて、学生たちが「伝えたいこと」は何だったのか。奇しくも、6名のうち4名が大きく括れば「環境問題」に関する内容だった。これは、授業で取り上げた地球環境問題をベースにしていたからだろう。しかし、4名の観点はそれぞれ異なっていた。素晴らしかったのは、自国での状況や個人で実践していることを、具体的に盛り込んでいたことだ。他には、趣味であるコスプレについて熱く語ってくれた学生や、「日本の手帳」に関する考察を、パワーポイントを使ってプレゼン風に発表した学生も。いずれも、とても発音がきれいで聞きごたえアリ、優劣つけがたい発表だった。

 

発表後は、すみやかに審査員や学生による投票が行われた。1位にあたる「優秀賞」だけでなく、「もっと聞きたかったで賞」「ベスト発音賞」「あふれる熱い思い賞」など…それぞれの講評とともに賞の名称が読み上げられ、出場者全員に賞状と副賞が贈呈された。忘れてはいけないのは、陰の功労者たちだ。大会の司会を務める学生も、「出場者紹介」を担当する学生も、実に堂々とした話しぶり。特に、出場者の趣味などを簡潔に紹介する姿は、まるで昭和歌謡の名司会者のようだった。

 

ところで、私が担当しているクラスの1つは、昨年4月からずっとオンラインのみで勉強を続けている。コロナ禍で、なかなか来日が果たせないからだ。彼らにとって、今回のスピーチ大会はとても大きな意味があったのではないだろうか。もちろん、昨年8月下旬に行われた『ARC創立35周年記念文化祭』もとても楽しいイベントだった。だが、文化祭はクラスごとに行われたので、「参加者」はたしか20数名だったと記憶している。それが、今回は3クラス合同で、教師も含め参加者は65、6名にも上っていた。そして1人1人の顔も見える。それでも一部ではあるけれど、「学校でこんなにたくさんの学生が勉強しているんだ」と実感できたはずだ。本当は、みんなの「伝えたいこと」をもっと聞いてみたかった。だが、それは、ちょっと後のお楽しみにとっておくとしよう。