No.181 卒業式の後は
2024/03/12
2023年度の卒業式が3月7日に行われ、多くの学生たちが巣立っていった。思えば、2020年3月、卒業式を目前にして緊急事態宣言が出たため、2日から急遽休校となってしまい、去年までは学校が式の会場となっていた。せめて門出を晴れやかに、というスタッフの配慮から、昨年も玄関がバルーンアートのアーチで飾られていたのを思い出す。前回から、実に5年ぶりの文京シビックホールでの卒業式開催である。天気は快晴とまではいかなかったが、雨は降らずほっと胸をなで下ろした。
というのも、その前に実施された2月22日の校外学習は、それまで「もう春だね」「暖かくなったね」という天候が続いていたのだが、あいにく直前から天気が急変。冷たい雨の一日となっていたのだ。こちらも5年ぶり、ずらりバス13台でのビッグイベントで、行先は八景島シーパラダイス。天気に左右されそうだなと老婆心ながら心配し、翌週の授業で学生たちに感想を聞いてみると、「寒かったけど、楽しかった」「雨でも楽しめるアトラクションがあった」という声が多くホッとした。
さて、無事に行われた卒業式のその後、である。多くの卒業生は新しい道を歩み始めたが、進路が未定の学生や希望者は、3月19日まで授業が続く。私が担当する準備教育課程の学生の場合は、選択の余地なく「3月19日まで出席する」が必須となっており、翌3月8日、私は公民の授業担当の日だった。が、東京の朝はあいにくの雪。さらに、朝からテレビではいくつかの路線での「運転見合わせ」情報が流れていた。それが学生にとっては影響大の路線で、非常に嫌な予感がした。
そして、9時15分。午前クラスの開始時間だが、遅刻せずに来たのは3人。もっとも、その日は前半「文系」、後半「理系」に分かれており、文系13人のうちの3人であるが、それにしても少ない。その後、チラホラと現れたが、結局全20人中7人も欠席であった。「休みたい」という気持ちもわからなくはないが、その日は学生たちに伝えておきたいこともあった。3・11について、である。
授業はあくまで公民だが、遅刻者続出は容易に想像できた。ならば…と、彼らを待ちつつ、災害に関する問題を解きながら、一緒に「備え」について考ようと思ったのだ。13年前の地震直後は「スーパーにもコンビニにも水や食べ物がなくなった」という話をしたが、学生には響いていなかった。困ってから買えばいい、と思っている。水の備蓄を聞くと、ある学生は、笑顔で「これ1本です」と、500mlのペットボトルを指した。「水は大切ですよ。今日、2本でいいから、大きなペットボトルを買って帰って」と私が言っても、どこ吹く風である。心の中で「備えあれば…」が虚しく響く。
世界には地震と無縁な国も多い。ゆえに「備え」もピンとこないかもしれないが、日本では不可欠だ。怖がらせず、でも確実に伝えるのは、日本語を教えるよりはるかに難しいのかもしれない。