No.185 7月に願いを込めて | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.185 7月に願いを込めて

2024/07/16

7月7日といえば、言うまでもないが七夕である。今年も学校の1階エントランスには、ずいぶん前から、願いごとが自由に書けるように笹の葉と短冊が用意されていた。当然ながら、短冊の数は多ければ多いほど七夕気分も盛り上がるというものだ。学生たちに「7月7日は七夕ですよ~!1階でお願いごとを書いてね」とアナウンスをしたところ、間髪を入れず、ちょっと憂鬱そうに「それ、JLPTの日です」と学生から返ってきた。日本語学習者にとっては実力をはかる年2回の大切な試験、日本語能力試験である。ちなみに、学校は6月下旬から7月7日まで夏休み。願いごとを書くのは、夏休みに入る前ということになる。果たして、短冊は「たわわ」に実ってくれるだろうか。

そんな心配をよそに、当初はまばらだった笹の短冊も日を追うごとに増えていった。学生たちはいったいどんな願いを託したのか。人のお願いをのぞき見するなど、いい趣味ではないとわかってはいるが、つい好奇心に負けて手にしてみた。やはり、試験が近いこともあってか「日本語が上手になる」「ぺらぺらになりますように」「N2・N1に合格したい」といった、日本語の勉強に関するものが多かった。が、中には「可愛い人に会えますように」「恋人がほしい」「お金持ちになりたい」、さらに「毎日おいしいものが食べられますように」といったものもあり、こちらもほっこりする。

また、国で家族が飼っているペットなのか、「うちのうさぎが元気になりますように」という、文字からもあふれる優しさに思わずホロッとしてしまう1枚もあった。そして何より、私が忘れられないのは、くっきり濃い文字で書かれた、自国の戦争終結を祈る1枚だ。なかなか口に出しては言えないことも、短冊にならその思いを素直に託せるのだろう。知ったからといって、私には何ができるわけではないが、せめて世界の情勢を理解することで、学生たちと何かを共有できたらと思う。

さて、7月期授業のスタートを前に7月4日には担当者会議が行われ、会議のあとでスタッフ&教師の懇親会が開かれた。以前は1月期の担当者会議の際に新年会も兼ねて開かれていたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大で見送りとなっていたのだ。今回は久しぶりということもあり、自由参加ながら会は大盛況で、クイズやおしゃべりなど楽しい時間を過ごすことができた。昨年から今年にかけて、さまざまな場面で「日常」が戻ってきている。そのどれもが嬉しいことだが、特にこの懇親会での声を合わせての「カンパイ!」には、言い表せない喜びが込められていたように思った。

ところで、ここ最近の猛暑もあってか、世の中「脱マスク派」が急増、学校の教師の間でも新学期スタートを機に脱マスクが加速している。いま現在、私はまだ「マスク着用派」なのだが、外すなら今なのかもしれない。波には乗り遅れてしまったけれど、たしかに「日常」は近づいている。

7月に願いを込めて