No.209 列車に乗って「ダンケシェーン」
2026/07/23
7月も中旬に差し掛かり、ついに本格的な暑さがやってきた。暑さといえば、この夏、何かとニュースになっているのはヨーロッパである。連日のように「ヨーロッパ各国、熱波で死者多数」「歴代最高記録41°Cを記録」といった見出しが躍る。各地の耐え難い気温に加えて、ヨーロッパ全体の冷房普及率の低さもたびたび大きく取り上げられている。実は、この「熱波」の中に私もいた。6月中旬から7月初めの学校の夏休みを利用して、姉の古くからの友人Aさんが住むドイツ・ミュンヘンを訪ねがてら、3人でイタリアやスイスのいくつかの街へリュックを背負って列車で巡ってきたのだ。
現地はたしかに暑かった。ミュンヘンではAさんのお宅にお世話になった。着いた初日には4階の屋根裏部屋が姉と私の「ベース」になっていたのだが、1週間ちょっと他の国や地域を巡り、そのベースに帰還してみると…恐ろしいことにサウナ状態になっている。聞けば、その前日のミュンヘンは37°C超えを記録し、他の街ではなんと40°C超えもあったという。結局、Aさん夫妻の勧めでサウナ化した屋根裏部屋から、地下の一室に避難させてもらった。すると、「同じ家の中でこんなに違う?」と驚くほどの涼しさで、おかげさまで、それからはエアコンなしでもぐっすり眠ることができた。
旅の途中、スマホでは「高温警報」「重大な高温警報」と、警報が徐々に深刻になっていく。それがついに「非常に重大な高温警報」となったときには、さすがに私も身構えた。それは意外にもスイスでのこと。昼過ぎの暑さの中を「アルプスの少女ハイジ」の地を目指した日のことだった。もちろん、ペットボトルの水と帽子は必須だ。それでも、ハイジの村までは気が遠くなるほど暑かった。
さて、2週間ともなると旅の思い出は尽きないが、そのスイスでの忘れられないエピソードがある。その日も国内の移動のために列車に乗っていた私たちだが、お互いに撮った写真を見て笑い合っていると、通路を挟んだ席の老婦人がふふっと笑ったような気がした。姉とAさんにそう伝えると、その婦人もこちらに気づき、笑顔で「ウ~ラララ、トゥラララ♪」というように歌い出した。しかも、手をスイングさせて、とても楽しそうだ。Aさんはドイツ語が流暢なのだが、それを知らない婦人は身振り手振りで何かを伝えている。まるで「私まで楽しくなったわ、ありがとう~」というように。
しばらくして次の駅が近づくと、彼女は立ち上がり、私たちのテーブルに10スイスフラン(約2,000円)をそっと置いた。キョトンとしている私たちの目の前で、またもや彼女は「ウ~ラララ、トゥラララ♪」と手をスイングさせて歌い、満面の笑みで去っていった。まさか、チップ?もしかしたら、日本語が珍しくて「あなたたちの言葉は、まるで歌ってるみたいね」と言いたかったのか。謎は謎のままである。とにかく、どなたかは存じませぬが、ダンケシェーン。だから、旅はおもしろい。





