No.64 笑いのツワモノ | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.64 笑いのツワモノ

2017/10/23

先日、テレビでお笑いのチャンピオンを決める番組を放送していたので、しばらく見てみた。こういう番組を見ると、ふと思う。「日本の笑いは外国人にも通じるのだろうか」「外国人は何を面白いと思うのだろうか」と。


もし「あなたが面白いと思うものについて発表して」と言われたら、どうするだろうか。映画でも、テレビ番組でも、アニメでも、人物でもいい。面白いと思うものと、その理由を説明しろと言われたら…これは、なかなかの難題だ。そもそも「何が面白いか」は人によって、またお国柄によっても違う。だが先学期、ある上級クラスで、そんな内容の発表が行われた。教科書で「笑い」をテーマにした課を勉強し、そのまとめとして「自分が面白いと思うものについて5分程度で発表する」という課題が与えられたのだ。


私が「笑い」と聞いて思い出すのは、ロシアの「アネクドート」という小話だ。もともと旧ソ連時代に広まった政治風刺で、主に権力者や富裕層を皮肉っている。表立って政治を批判できなかった時代、人々にとっては一種の娯楽のようなものだったのだろう。ロシア人は今でも「こんなアネクドートがあってね…」と持ちネタを披露する。爆笑というより「くすっ」という笑いだが、日本にはないユーモアであり、私にとっては懐かしきロシア文化である。


さて、学生たちの発表はどうだったのか。やはり難しい課題だったようで、日本のドラマ、アニメ、韓国のバラエティ番組などの紹介が続いたが、どれも内容がごく表面的で「面白さ」や「愛」が伝わってこない。


そんな中、傑作は生まれた。その学生は、ふだん自分から言葉を発することがなく、ミステリアスな存在である。が、順番が来ておもむろに立ち上がると、表情が変わった。私には「カチッ」という心のスイッチが聞こえたような気がした。みんなの前に立った彼は、実にイキイキとした表情で、大好きだという日本のお笑いコンビについて話し始めたのである。コンビ名の由来、代表的なコントなど、前を向いて大きな声で語りかけている。しかも身振り手振り付き。言葉の端々には、そのお笑いコンビへの愛があふれている。


まるでショータイムのような約5分間が終わり、席に着いた彼はいつもの寡黙な学生に戻っていた。まるで電池が切れたように。そのギャップに、私は思わず「ふふっ」と笑ってしまった。これも彼の計算か。そうなら、ツワモノだ。日本の笑いについて、一度その学生の意見をじっくり聞いてみたい。