海外での経験も豊富なベテラン教師が、日本語教師の日々をつづるエッセイ | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.67 寂しき忘れ物

2017/12/12

留学クラスでは、3時間の授業が終わると、教師の「最後の仕事」が待っている。学生が帰った後の教室内のチェックである。当然ながら、自分が使った机の上はきれいにし、椅子はきちんと元の位置に戻して帰ることになっている。しかし毎回、念のため「椅子をきちんと戻してね」「忘れ物のないように」と呼びかけながら、学生が帰っていくのを見届ける。


特に午前クラスの場合は、引き続き同じ教室を午後クラスでも使うため、教師の教室チェックは不可欠だ。午後クラスの学生が気持ちよく勉強できるように…そんなふうに他者を思いやってほしいものだが、やはり学生によって意識の差は大きい。だが、自分が座った椅子以外でも、きちんと元に戻して帰っていく学生もいる。そうした学生には、しっかり「ありがとう」と感謝を伝えるようにしている。学生のやさしさに、ちょっと救われた気がする瞬間だ。


忘れ物もなかなかゼロにはならない。まず多いのが、やはり漢字や総合日本語の教科書だ。これは、教師が発見するというよりも、次のクラスの学生が机の下で発見して「先生、これ忘れ物です」と教えてくれたりする。教科書は、けっして安くない。自己責任でしっかり管理してほしいものだ。


また、宿題やアチーブメントテストといったプリント類をごっそり置いて帰ってしまう学生もいる。これは、ほぼ100パーセント名前が書かれているため、すぐに「持ち主」は判明する。私が知る限り、こうした学生のテストの得点はあまり芳しくない。ぜひ、万が一、再び教室に置き忘れたときのために、人に見られても恥ずかしくない点数を目指してほしいものである。


他にも、1円玉、カード利用控えといった「たぶん、持ち主は現れないだろう」と思われるものから、パスポートや「重要」と書かれた電話の請求書らしき物など、実にさまざまだ。ちなみに、飯田橋校の忘れ物は、段ボールにまとめて保管されているが、持ち主が現れずに何となく寂しそうに見える。


そんなある日の授業後、3階に戻ってクラスの出欠を入力しようとしたところ、クラスファイルが見当たらない。たしか教室を出るときに持ち物を確認してきたはずなのだが…と思いつつ、念のため教室に戻ってみると、教卓の中に置きっぱなしとなっていた。しかも、ドーンと。何だか最近、自分の「たしか」に自信が持てなくなってきた。もしかして、どこかに私自身が気づいていない「忘れ物」があるのではないか。少し心配になる今日この頃である。