No. 80 多読のとき | 日本語教師目指すなら日本語教師養成講座、日本語教育能力検定試験対策のアークアカデミー

No. 80 多読のとき

2018/06/19

木曜日の午前。校舎最上階である8階の広々とした空間に、開け放したドアから心地よい風が入ってくる。座席は自由。そこには、何とも言えぬ穏やかで静かな時が流れている。これは、けっして「睡眠学習」の時間ではない。れっきとした授業。選択授業の一つ「多読」での光景である。


6月の日本留学試験、7月の日本語能力試験と、学生にとって重要な試験を控えている4月期。当然ながら、選択授業も試験対策を目的としたものが多い。その中で異色とも言える「多読」。少し前に「小説・エッセイの読解」を担当したことはあるが、「多読」の授業を担当するのは私も初めてである。まずは、「多読とは?」を確認すべく関連本を読むところから始めた。


多読―その漢字から、「たくさん本を読む」ということはわかるが、そこには4つのルールがあることを知った。①やさしい内容のものから読み始める②辞書、スマホ類は一切使用しない③わからない言葉や表現があっても調べず、飛ばして読む④興味が持てない、レベルが合わないなどの理由で先に進まなくなった場合は、他の読み物に替える。以上の4か条である。「読解」とは違い、内容の確認や問題を解くといったこともない。多くの本を読み進め、日本語の本を読んだとき、まず母語に訳してから理解しようとするのではなく、「日本語を日本語として頭に入れていく」ことを目的としている。


そもそも、この選択授業を選んだ学生のほとんどは、「多読とは何ぞや」の答えを知らずに選んでいるはずだ。試験を受ける予定がないから、という理由だけで選んだ学生も多いだろう。初回の授業では、まず(私自身もにわか仕込みの)「多読のルール」などを伝え、さまざまなレベル・内容の多読用の読み物を用意して机に並べ、学生たちに好きなものを選ばせた。「読解」の授業では、各回しっかり「感想」を書かせたが、「多読」は読むこと自体が重要なので、感想はほんの一言でヨシ。あくまで学生次第なのである。


果たして、学生たちは環境をきちんと活かしているか。授業中にさり気なく教室を見渡す。中には読んでいるフリらしき者、スマホを手にしている者も皆無ではないが、おしゃべりは聞こえない。とりあえず静寂の中で、ほとんどの学生が目で文字を追っている。今回は90分授業が7回だけで、すぐに効果が出るわけではないだろう。だが、自分の力だけで読み終えた小さな感動の積み重ねは、次へのステップになるはずだ、と信じている。