No.112 おいしい再会 | 日本語教師目指すなら日本語教師養成講座、日本語教育能力検定試験対策のアークアカデミー

No.112 おいしい再会

2019/10/17

ある午後の授業でのこと。時計の針が3時を指すのを確認して「じゃ、休憩にしましょう」という私の声を聞くや、ある女子学生が席で何かを食べ始めた。もちろん、休憩時間にそれぞれ「昼食」や「おやつ」を食べる光景はいつものことだが、なぜかその「何か」に惹かれた私は、彼女の机に近寄り、ちょっと覗かせてもらった。その「何か」は、やや大きめの紙容器にコーヒーゼリーのようなものがたっぷり入っている。聞けば、赤羽にある台湾デザート店のもので、他のクラスメートに頼んで買ってきてもらったと言いながら、実においしそうに食べている。


そのコーヒーゼリーのようなものが実は「仙草ゼリー」だということは、すぐわかった。以前暮らしていた台湾や、旅行で行った香港で同じようなデザートをよく食べたからだ。いわば「思い出の味」である。そういえば、香港ではその名も「亀ゼリー」にハマったなあ、などと懐かしみつつ、私は彼女にデザート店の名前を聞き、ネットで検索。赤羽以外にも支店があることを知った。その後は、私も最寄りの店舗に通い「仙草」や「豆花」を楽しんでいる。


また先日、こんなことがあった。私にはかねてより「本場」の味を求め続けている料理がある。ブンチャー。ブンは米粉で作られるベトナムの麺で、日本では同じ米粉でもフォーのほうが知られている。だが、私は断然「ブンチャー派」だ。独特の甘辛酸っぱいタレに炭火焼肉などを入れ、ブンといっしょに食べる料理で、ハノイ在住の1年半、市の中心にある老舗はもちろん、学校の近くにある店というより路地のような、ごく小さなお店にも足しげく通った。帰国してからも「本場の味」を求めていろいろなベトナム料理店に足を運んだものの、似て非なるもの、まったく似ていないものなどで、なかなか「これ!」と言える味と再会できずにいたのだ。


そんなとき、あるベトナム人学生から有力な情報を得た。彼自身は行ったことはないが、ベトナム人の間で「ブンチャーがおいしい」と評判の店があるという。私と同様にブンチャー好きな姉と「ぜひ、今度行こう」という話になったものの、1か月半ほど過ぎて…。学生と顔を合わせるたびに「先生、行きました?」「まだ」という会話を繰り返し、若干その学生をイラつかせていた。が、ついに先日、その店を訪れることができた。思い出の味との再会に胸が躍る。


果たして、その味やいかに。迷わずブンチャーを注文した私と姉は、一口食べるや「これは!」と叫んだ。ハノイの老舗と同じではないが、たしかにブンチャーである。両者一致の「合格」だ。何より、やっと「行ったよ。おいしかった!」と、学生にも報告できた。留学生を通して知る世界の「本場の味」。これも、日本語教師の秘かな特権と言えるかもしれない。



essay2017001