No.134 久しぶりの「初めまして」
2020/11/18
日本語教師は、一年を通して、幾度となく「初めまして」と「さようなら」を繰り返している。そうして常に新しい気持ちで日々が動いていき、それがこの仕事の魅力でもあると私は思っている。ただ、今年は緊急事態宣言により3月が休校になってしまったこともあり、卒業生に「さようなら」を伝えるタイミングを失い、5月以降も在校生のみのクラスが続いていたため、初対面の挨拶をする機会がないまま、時間が経っていった。まさに異例の年である。
そして秋、にわかに増えた「初めまして」。留学生の入国規制が緩和され、まずは10月から、海外向けのオンライン授業がスタートし、私もその中の中上級クラスを週1回で担当することになった。時間は朝10時から。留学クラスの授業は通常9時台のスタートだが、中国の学習者がほとんどであることから、時差を考慮しての時間設定である。国内向けのオンラインはそれなりに経験しているが、「時差」があるのは何だか新鮮だ。初めのうちは、休憩時間も「じゃ、11時まで休みます。あ、日本時間の11時ね」などと加えていた。とにかく、全員が「初めまして」からのスタートで、いつもなら当たり前のフレーズも、今年は感慨深いものがある。
さて、こうして始まったオンライン授業であるが、なかなか目まぐるしい。毎日のように学習者の状況が変わっているからだ。というのも、予想以上の入国ラッシュで、その学生が未入国なのか、入国して2週間の待機中なのか、すでに対面授業に参加しているのか、担当前日にやっと確認できるのだ。私が勝手にのんびり構えていたのかもしれないが、留学生たちはけっこうなスピードで「動いている」。そう考えれば、このバタバタ感も嬉しいことではある。
ところで、例年は夏に1か月ほど実施されている某訪日後研修も、今年は大幅に遅れて11月下旬からのスタートとなった。さまざまなことが、ようやく一気に動き出した感がある。私はこの研修が始まって第1回からずっと関わっており、週に何回か担当するのが「夏の風物詩」になっていたのだが、今年は諸事情により、12月の後半2日だけ代講することになった。ここでも別々の3クラスに入る予定なので、「初めまして」が言えるのを楽しみにしている。
そんな中で先日、あるクラスの授業前に一人の学生が「先生、お話が…」とやってきた。もう随分と長く担当しているクラスだ。マスク越しながら、学生の目が少し潤んでいる。聞けば、事情があって急遽帰国することになったとのこと。「今日まで」という突然の話に、もちろん驚いたが、直接「さようなら」を言えたことがせめてもの救いだ。ひたひたと師走の足音が聞こえてくる。果たして、年内にあといくつの「初めまして」に出会えるのだろうか。