No.151 「いっしょ」の時間 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.151 「いっしょ」の時間

2021/11/30

11月末のある日、休憩時間に学生がキラキラした目でやってきた。「先生、明日のクリスマスツリーの飾りつけに参加したいんですが、どうしたらいいですか」。何のことかと聞くと、「これです」と教室の外に貼られた小さなポスターを指す。それは「いっしょにクリスマスツリーを飾りませんか」というシンプルな1枚。私がうっかり見逃していたポスターに、彼女がしっかり目を留めたことが素晴らしいと思った。そして、この「誘い」にも胸が熱くなった。さっそくスタッフに確認して、「予約はいりません。みんなウエルカムだそうですよ」と伝えると、彼女はやさしい笑顔で頷いた。その翌日から約1か月、クリスマスツリーは1階のエントランスで毎日みんなを見守ってくれている。


思えば、昨年末は「我慢のプレッシャー」で、旅行や帰省はおろか、会食もさまざまな制限で「みんないっしょに」がタブーになっていた。街のイルミネーションも「人が集まらないように」と自粛され、昨年秋に来日した留学生は当時を振り返って、「去年はクリスマスのときも、街は静かでした」としみじみ話す。幸い今のところ日本の状況は落ち着いていて、去年よりは明るいムードに包まれている。何より「できないこと」が憂鬱だった日々から、「できること」をオープンに楽しめる日々になったのがうれしい。引き続きの対策はもちろん必須だが、素直に今を味わいたいと思う。

 

さて、学校の授業で「できるようになったこと」の1つに、ゲストを迎えた対面での「おしゃべり」がある。「おしゃべり」などと言ってしまうと、簡単そうに聞こえるが、実はこれが留学生たちにとっての課題になっていることが多い。文法や語彙はテキストを使って授業で学ぶことができる。たしかに、授業でも会話の時間を設けているが、それは各回テーマを設けて、ある程度場面を限定した上でのこと。かなり話せる学生でも「アルバイト先で、日本人同士の会話についていけない」という悩みをよく聞く。仕事に関することはわかるが、予測不可能な「フリートーク」が難問なのである。

 

そんなわけで、口頭表現を担当しているクラスで、日本人のゲストにご協力いただき、対面でのディスカッションを行った。ちなみに、この日は「成果発表会」ということで、4つのグループに分かれて『過去と未来、行くならどっち?』というテーマで意見を交換し、最後にグループで話した内容を代表者に発表してもらう…という流れである。だが、「話し合いが終わったら、何でもけっこうです、自由におしゃべりしてください」とも。むしろ、こちらがメインともいえる会だった。

 

私は各グループを回って様子を見ていたのだが、ゲストの皆さんが学生の話にじっくり耳を傾け、言葉をていねいに引き出してくれていた。普段は消極的に見える学生も、いきいきと意見を述べている。まだ受験シーズンは続く…。そんな学生たちにとって、きっと貴重な時間になったはずだ。