No.167 手ぶらで初授業
2023/01/12
今年の授業初日は、成人の日の翌日、1月10日の火曜日だった。留学クラスは、担任が初日の授業を担当するのだが、私が担当している準備教育課程クラスは、初日でも最終日でも、基本的にはその曜日の担当教師が入ることになっている。というわけで、私も1月10日が仕事始めとなった。
幸いなことに、火曜日は午後クラスだ。もし午前クラス、特に初めて入るクラスなら、前の日からドキドキしてしまい、睡眠不足のまま初日を迎えることもあった。今回は、午後という気楽さもあって睡眠たっぷりで臨んだのであるが、やはり長い休み明けである。何かと心配は否めない。
しかし、心配は無用であった。学生がその上をいっていたからだ。火曜日のクラスは、去年の10月にスタートしたクラス。早めに教室に入ると、いつもまじめに取り組んでいる学生が数名すでに来ている。そのうちの1人が私の顔を見て言った。「先生、教科書、忘れました」「どの教科書?」「全部、忘れました」。まるでいいニュースを報告するような笑顔である。たしかに、机の上には何もない。まあ、仕方ない。今回だけはコピー対応することにして「明日は持ってきてね」とクギをさす。
すると、それを聞いていたクラス一のしっかり者まで「あ、僕も忘れました」と言ってきた。しかも、彼は「すみません、鉛筆か何か、書くものを貸していただけませんか」と、模範のごとく丁寧な文で言うのだが、要は教科書もノートも筆記用具も、何も持たずに学校にやってきたようだ。手ぶら状態で、いったいどこから来たのか聞いてみると、バイト先からだと言う。「バイトのついでに学校に寄ってみた」というわけではないだろうが、しっかり者にして、かなりの休みボケぶりである。
思わず「何も持たないで来るって、すごいね」と笑いながら対応していると、今度は、初めに教科書を忘れたと言った学生がポンと一言。「いや、頭ひとつだけ持って来ました」。「身ひとつ」ならぬ「頭ひとつ」、とは。休み明けにしてはけっこう冴えているじゃないか、と妙に感心した。
実は、学生の休みボケを笑えない出来事があった。教室に入ったとき、ある席にちょこんと座る、見たことのない男子学生が一人いたのである。欧米系の学生なのだが、「はて、この人は?」と頭に妙なスイッチが入る。そこから妄想がふくらみ、「もしかしたら新入生か?」「〇〇くんが、休み中に大胆イメチェンしたのか?」「私が忘れただけで、こういう学生もいたかも?」などと考えてしまい、ついには教務担当に助けを求めてしまったのだ。結果、ただ教室を間違えた学生ということで一件落着。これは休みボケなのか、老化現象なのか。いずれにしても、我ながら情けない話であった。
今期は、3月に卒業を控えた学生たちにとって「進学準備」と「思い出づくり」の日々となる。残念ながら、まだ進路が決まっていない学生もいる。「サクラサク」満開まで、あと一息だ。