No.189 在校生の今、卒業生の今
2024/11/15
10月期が始まって1か月ほど経った。今学期は、休みがほぼ土日しかなく、試験もあり、学生にとってはタフな日々が続く。まず、11月10日には日本留学試験が開催された。翌月曜日の担当は午後クラスだが、来年3月卒業で、今まさにみんなが受験モード真っ最中。ゆえに、さぞグッタリしているのではないかと思った。が、フタを開けてみると、欠席者もなく学生たちもとても明るい。「試験はどうだった?」の反応は人それぞれだが、とにかく大きな仕事を終えてスッキリしたのだろう。
日本留学試験の前には授業でも読解、聴解などの試験対策を行ったが、その中で私が担当した1つが「記述」である。環境や社会問題をテーマにした課題2つから1つを選び、それについて30分で原稿用紙400~500字程度にまとめるのが「記述」だ。まず問題を読んで理解し、わずか30分でそれを日本語でまとめるのだから、赤ペンも入れ甲斐があるというものだ。漢字圏の学生の中には、何度赤字を入れてもずっと自国の簡体字を書いてくる学生もいる。また、非漢字圏の学生の場合は誤字である。「必要」と書くところを、なんと「心悪」と書いた学生がいて私も一瞬ギョッとしたが、それが普段はとてもよくできる学生だったので驚いた。ほとんど、ひらがなという場合もある。始めてしまえばいいのだが、赤ペンを握るまでは、教師も「やるぞ!」という意気込みが必要なのである。
ところで、11月某日、今年3月の卒業生が学校に遊びに来た。大学のある関西から、遠路はるばるの来訪である。担任だった先生からの連絡で、彼女は10時半ごろ来るという。タイミングよく、私は午後クラス担当の日。そこで、私もその時間を目指して学校へと向かうことにした。と、彼女がちょうど予告通りの時間に現れた。そういえば、在学中から自己管理がきちんとできるタイプで、ほとんど遅刻はしなかったことを思い出す。そういう意味では真面目なのだが、それだけではなく、外見も考え方も非常にユニークで、行動力にもたびたび驚かされる「記憶に残る学生」なのだった。私も「あの子、どうしているかな」と気になっていたので、実にいいタイミングで遊びに来てくれた。
約1時間近くもおしゃべりした後、何気なく「私の下の名前、覚えてる?」と聞いてみた。すると、彼女は得意げに即答する。「わかりますよー、こうし先生!」。私の下の名前「光子」を「こうし」と読んでいたのである。たしかに、新しいクラスの自己紹介では名前を板書して、「これは何と読むでしょう?」と聞いてみると、「こうし」または「ひかりこ」と読む学生が多い。そこで、私が正しい読み方を書いた後で、「『こうし』は、これです」と、「孔子」と板書すると漢字圏の学生は「えーっ、アハハ」といった反応になるのだ。それにしても、2年担当した学生まで「こうし」と思っていたとは。まあ、いい。手土産にくれた絶品のエッグタルトに免じて、この件は大目に見ることにしよう。