コロナ禍から博士課程へ――『日本の中のイスラーム学校』の歩み | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

コロナ禍から博士課程へ――『日本の中のイスラーム学校』の歩み

2026/01/28

佐藤 直記さん

【日本語教師養成講座(420時間通信コース)2020年10月卒業】

『日本の中のイスラーム学校 ― 在日ムスリムのアイデンティティ形成の場』(明石出版)

じゃーん!このたび拙著『日本の中のイスラーム学校 ― 在日ムスリムのアイデンティティ形成の場』(明石出版)を刊行しました。学術書らしく内容はやや硬めですが、ハードカバーなので“物理的にも”しっかり硬い一冊です。

日本の中のイスラーム学校――在日ムスリムのアイデンティティ形成の場

どうして日本語教師をめざしたのですか?

アークアカデミー日本語教師養成講座420時間通信コースを修了したのは2020年です。30年近い海外駐在生活の中で「もう日本に戻ることはないかもしれない」と思っていた矢先、コロナ禍が突然訪れました。

仕事の先行きも見えなくなり、思い切って帰国を決意。以前から関心のあった日本語教師を本格的にめざすことにしました。通信コースにすぐ申し込み、オンデマンド授業は帰国前から受講し、スクーリングに合わせて日本へ戻りました。


(駐在員時代:インドネシアにて)

コース終了後はどうでしたか?

受講を始めた頃、日本ではクルーズ船での感染が大きなニュースになっていました。その年のうちにコースを修了しましたが、日本語学校は新入生の来日が止まり、経験豊富な講師でさえ職を失う厳しい状況。新人が採用される余地はあまりありませんでした。

そこで、海外生活で築いたご縁を頼りに、イスラーム系インターナショナルスクールの小学部で日本語を教える道を選びました。養成講座しか知らない新人が、いきなり小学4年生をオンラインで教えるというのは、今思えばかなり無謀でしたが、この経験で度胸だけはしっかりつきました。


(コースを修了!)

それからどうしましたか?

インターナショナルスクールで日本語を教えるうちに、日本語教育だけでなく児童生徒の発達や学習観への理解が不可欠だと痛感しました。そこで大学の通信課程で教職課程を履修し、中学・高校の国語科教員免許を取得しました。母校での教育実習もコロナ禍の真っただ中で、生徒の顔はマスク越しでしか分からず、まさに「マスクが顔の一部」だった時代の実習でした。それでも、この経験が現在の教育活動の大きな土台になっています。

現在はどんな仕事をされていますか。

イスラーム系インターナショナルスクールでの日本語講師は現在も続けていますが、教員免許を取得したことで活動の幅が広がり、都立高校定時制での日本語取り出し授業や、私立高校でスポーツ留学生を対象とした日本語指導にも携わっています。さらに、仕事だけでなく学びも継続しており、大学院(通信制)で教育学を専攻して修士号を取得しました。現在は客員研究員として研究を続け、2026年春から博士後期課程に進学することも決まっています。思い返せば、すべては2020年にクルーズ船での感染ニュースが流れた頃から始まったことで、この6年間でここまで歩んでこられたことに、自分でも驚くほどです。

本の出版おめでとうございます。どのような本ですか?

この本は、勤務校であるイスラーム学校を題材に、大学院の修士論文として取り組んだ研究をもとにしています。「イスラーム学校は本当に学校なのか」「その存在意義は何か」という問いを軸に、修了後に新たな知見を加え、分量も約4倍に拡充して学術書としてまとめました。本書の大きな特徴は、生徒たちのアイデンティティがどのように形成されていくのかを、イスラームという宗教的文脈から丁寧に分析している点です。

われわれ日本語教師はこの本をどのように読めば良いのでしょうか?

現在、日本には労働者として来日するムスリム外国人が増え、ムスリム留学生や外国ルーツのムスリム児童生徒も年々増加しています。

しかし日本社会では、イスラームを「あれをしてはいけない」「これを食べてはいけない」という“規制の体系”として理解しがちです。本来イスラームは「神を信じる宗教」であり、信仰こそが中心にあるという視点が欠けているのではないかと感じています。

日本人がイメージしやすい飲食規制といった実践は、信仰と結びついてはいるものの、あくまで“枝葉”の部分です。そしてこの枝葉の部分は個人の解釈によって幅があり、「こちらのムスリムは良いと言うのに、あちらのムスリムは納得しない」ということはごく普通に起こります。そのため、学校側が一律にマニュアル化するのは非常に難しいのです。

日本語教師として大切なのは、生徒の信仰を尊重しつつ、信仰実践の幅については生徒自身の理解に委ね、できる限り希望に沿う姿勢を持つことだと考えています。

日本の中のイスラーム学校では実際にどのような教育が行われているのか、ぜひ本書を手に取って確かめていただければ幸いです。

ありがとうございました。