No.168 ドリンクにご用心 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.168 ドリンクにご用心

2023/02/06

授業の冒頭、宿題を回収する。「冒頭」の理由は、うっかり回収し忘れることがあるのと、「宿題」と名のついたものを、学校に来てから、しかも授業中にせっせとやっている学生が少なくないからだ。中にはクラスメートの宿題をそのまま写す、という手段に出る学生もいる。当然、宿題をチェックする際にその「不正」はあっさり判明することになり、まったく意味がないどころか、心証としては大きくマイナスになると思うのだが、そのあたりをどう考えているのか一度聞いてみたいものだ。

さて、早いもので今年も2月。3月の卒業を控えた学生たちにとって、おそらく授業に集中できないときである。既に進路が決まっている学生の場合は、「出席率をキープしておけば、あとは…」という気持ちだろうし、進路が未定の学生もまた、「授業どころではない」という気持ちなのは想像にかたくない。教壇に立つ者として、「ああ、今日もほとんど聞いてないんだろうな」という学生たちを前に授業を進めるのは、ちょっとした苦行。日本語教師はタフでなければ務まらないのだ。

そんなある日、いつものように宿題を集めていると、ある学生が悲しそうに「昨日の宿題が…」と言う。失くしてしまったのかと思って聞いてみると、違っていた。その前日、彼女は家で飲もうとミルクティーを買い、バッグに入れて帰宅。すると、彼女曰く「ミルクティーがボン!」となっており、バッグの中の教科書やプリント類、もちろん宿題も、ミルクティー漬けになってしまったのだという。たしかに教科書も、水でざっと洗ったようだが、一部「ふにゃふにゃ」の状態になっている。

しかも、よくよく聞いてみると、それは「タピオカミルクティー」だったようで、バッグを洗ったときに、そのタピオカが洗濯機の中に浮かんでいた…という説明に至っては、申し訳ないが、吹き出してしまった。そして、洗ったバッグの代わりに「これがバッグです」と持参したのは、スーパーの袋。授業後、その袋に教科書などを無造作に入れて元気に帰っていった。また笑ってしまった。

実は、この「タピオカミルクティー事件」で、思い出したことがある。私がまだ若かりし頃、小さな広告会社で働いていたときのことだ。お中元で会社に届いたビールなど「欲しい人は、持って帰っていいよ」と社長が言う。その日は、同僚たちとカラオケに行く予定で、「じゃ、1本」とバッグに入れて会社を出た。金曜日ということもあり大いに盛り上がって、終電ギリギリになった。

みんなで駅まで走り、「お疲れー!」と電車に乗ったところで、異変に気づく。バッグの中がまさかの「ビール漬け」に。一瞬、何が起きたのかわからなかったが、どうもプルトップが勝手に外れてしまったらしい。たぶん、駅まで走った振動だ。帰宅後、バッグ内の惨状に、涙が出そうだった。タピオカミルクティーとビール…違いはあるものの、その学生には妙な親近感を抱いている。