No.178 また会いたいな
2023/12/07
11月末、小春日和の午後。10月にスタートした準備教育課程の学生たちは、ある場所を目指していた。学生たちの手には、スリッパとアイマスク入りの袋がしっかり握られている。向かっていたのは東京都立文京盲学校。東京校から歩いて6、7分ほどの場所にあり、それがご縁で、これまで何度か高校生と留学生の交流会が行われている。そして、この日がその交流会だったのである。
会場は体育館。交流会は二部に分かれており、まずは「会話交流」から。高校生と留学生がそれぞれ6つのグループに分かれて車座になり、自己紹介から始まった。その後は、お互いの生活や趣味についてのフリートークだ。それぞれのグループに文京盲学校の先生方がサポートで入ってくださったため、私はそっと6つの輪を巡り、学生たちの様子をうかがっていた。高校生からは「どうして日本語を学ぼうと思ったんですか」といった面接さながらの質問もあり、初めこそやや緊張感が漂っていたが、徐々に打ち解けてくると、アニメやゲームの話で盛り上がっているグループもあった。
続く第二部は、サウンドテーブルテニスによる「スポーツ交流」。音の出る金属球が入った球を卓球台の上で転がして打ち合うスポーツで、もちろん留学生たちは初体験だ。3台の卓球台に分かれ、まずは、それぞれのグループの高校生たちがルールを説明してくれたのだが、これが本当にわかりやすい。サーブは「行きます」と声をかけ、相手が「はい」と答えてからでないとNGとのこと。説明の最後に「私たちはもう慣れているのでハンデが必要かもしれませんね。アイマスクはしなくてもいいですよ」という心遣いもあったが、留学生は全員持参したアイマスクをつけて勝負していた。
それにしても、スポーツ交流ではそれぞれの個性が出るものである。人の話をよく聞かず、まだ説明も受けていないうちから勝手に高校生に1人混じって、ラケットを手にプレーを始めていたAくん。手加減をして初めはゆっくり打ち返してくれる高校生に対して、初球からすごいスピードの本気モードで立ち向かうBくん。他の学生の順番だというのに、その学生のすぐ脇で世話を焼こうとするCくん。思わず、「Cさん、近い、近い」と服を引っ張って離れさせたものの、数秒もしないうちにヒューッと戻り、また卓球台に張りついている。とことん世話好き、なのである。しかし、このCくんは、日頃からクラスのムードメーカーで、前半の「会話交流」でも大きな声で元気よく場を盛り上げていた。もし、今回「MVPオブ留学生」があるならば、私はぜひ、このCくんにあげたいと思う。
さて、学校に戻って、学生たちがしたためた感想からは、彼らが交流会で出会った高校生の皆さんから、実に多くを学んだことがよくわかる。「この縁を大切に」「また会いたいな」という声もあった。そして、ある学生が実感を込めて言った「すごい!」。この一言に、すべてが凝縮されている。