日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.14 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.14 プレゼント

2015/10/02

私は宿題のことを「プレゼント」と呼んでいる。授業がもうすぐ終わろうかというとき「はい、今日のプレゼント」と取り出した宿題を見て、学生たちは苦笑い。中には「そのプレゼントなら、いりません」と言う学生もいるが、「いやいや、もらっていただかないと…」とわざと丁寧な口調で配り始める。この「プレゼント」というのも、あながち間違いではないように思う。多少なりとも時間をかけ、心を込めたものだから。


さて、宿題が教師から学生への一方的なものであるかといえば、そうとばかりもいえない。時には、教師が学生から「宿題」をもらう場合もある。授業中に聞かれて、とっさに答えることができなかった、あるいは時間がなくてうまく答えられなかった質問などである。


何を聞かれ、どう答えればいいかという緊張感は、日本語のレベルによって異なる。たとえば初級の場合は、質問そのものはあまり難しいものではないだろうが、答えるときに「学生にわかることばで、きちんと伝えられるか」という大きな課題がある。海外で教えている場合、多少は(または全部)現地のことばを使ってもいいのだろうが、日本で多国籍の学生に教えている場合はあくまで「日本語で」が原則なのである。


そして、レベルが中級、上級へと進むにつれて、今度は質問の内容そのものが複雑になりがちである。もちろん、教師たるもの即座に的確な返事ができるのがベストではあるが、時にはそれが難しいこともある。そんなとき無理は禁物だ。「教師も人間」と、いい意味で開き直って「宿題」にする。一番やってはいけないのは、質問されて慌ててしまうことなのだ。どんなに難しい質問をされても、まずは深呼吸。落ち着いたトーンで「ごめんなさい。次までに確認してきますね」と答えればいい。


こうして、学生からもらった「宿題」は自分にとってもいい勉強になる。学生が満足できる説明ができれば、それも「信用」になるのだ。

 

教師たるもの、でもう一つ。今や電子辞書のみならず、スマホで簡単にことばを調べることができる。それだけに、板書したばかりの漢字を「先生、それ違います」と学生に指摘されてしまうこともある。そんなときも自己嫌悪に陥らず、ポジティブでいることが大切だ。こうした指摘も学生からのプレゼントだと感謝できれば、「教師合格」なのである。

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