日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.28 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.28 隠れたスター

2016/05/09

最近、テレビに「外国人」がよく登場している。空港に到着した訪日外国人にインタビューして密着取材、という番組が人気を呼んだのも理由の一つだろうが、ニュースの外国人観光客増加や「爆買い」だけでなく、日常的に話題になることが増えたような気がする。思うに、テレビ業界における「日本語が話せる外国人たち」の需要も高まる一方、という状況なのではないだろうか。それは、ますます過熱しそうな勢いだ。

 

などと考えていたら、たまたま見ていたテレビ番組に顔見知りの学生が出ていた。一人ではなく、何人も。ある学生は情報番組の真面目なインタビューに答え、ある学生は大勢の外国人を集めた番組で「ひな壇」に座り、司会者のツッコミにも堂々と答えて笑いまで取っていた。さらに、ある卒業生はバラエティ番組の再現ドラマで主役をこなしていた。もちろん、みんなが有名になりたいと思っているワケではないだろうが、「日本語」を武器に、いろんなチャンスを広げているのは実に頼もしい。

 

そういえば、私がロシアのウラジオストクで日本語を教えていたときに、こんなことがあった。当時、なぜか現地が日本のマスコミに取り上げられるケースが続き、某人気バラエティ番組の撮影隊もやってきた。当然ながら、その番組はロシアでは放送されないため、私は姉に頼んで録画したDVDを送ってもらい見てみたが…。内容は、その番組内の「罰ゲーム」で超有名芸人が極寒のウラジオストクを訪れ、いろいろなハプニングに遭遇するというもので、面白いが、筋書きはめちゃくちゃだ。

 

内容はともかく、驚いたのは、私が教えている大学の学生が「出演」していたことである。なぜか「中学校の番長の子分」役で登場。セリフがいくつもある立派な出演なのだが、実は彼はそれほど日本語が話せない。本人に聞いてみたところ、案の定、内容を全く理解していなかった。

 

結局、私は彼の「共演者」がいかに有名であるかを伝え、そのDVDを記念にプレゼントすることにした。「これで、あなたもスターだね」という、リップサービスともウソともつかない余計な言葉を添えながら。それにしても、あの出演で果たしてギャラはもらえたのか気になるところだ。が、それ以上に気になるのは、番組の内容を知ったときの彼の胸中。「くだらない」と言いつつも、笑い飛ばしてくれたことを祈りたい。

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