No.30 ちょっといい話
2016/06/07
いろいろな国からやってくる留学生たちに接していると、彼らの目に日本はどう映っているのだろうかと気になる。教科書の例文のような「日本人は親切です」といったものではなく、もっと本音のところで何を思ってこの異国で暮らしているのか、である。逆に言えば、日本人は年々増えていく外国人に対してどう考え、どのように接しているのだろうか。
おそらく、昔に比べたら「ウチ」と「ソト」の壁は、低く薄くなっている。それでも、外国人との交流が非日常的だという日本人はまだ多く、どう接したらいいものか戸惑っている人もいるに違いない。報道などで、外国人に対してある種の偏見を持っている人も少なからずいるだろう。
そんな中、授業でココロ温まる話を聞いた。初中級クラスで「日本での出会い」について、一人ずつ体験談を発表したときのこと。ある男子留学生の来日直後の話である。彼は同じ国出身の先輩とふとんを買いに出かけた。だが、どこへ行けば買えるのか、頼りの先輩も知らなかったらしい。困っていると、見ず知らずのおじいさんに声をかけられた。ふとんを買いたいという話をすると、おじいさんは実に的確な質問をしてきたそうだ。「欲しいのは、高いふとん? それとも、安いふとん?」と。
この質問には、どこかイソップ寓話『金の斧』のような響きがある。果たして、その学生は幸運を手にできるのか。それはともかく、学生が「安いふとんです」と答えると、ならば近くに買える店はないからと、遠くの店まで車で連れて行ってくれたそうだ。そして、手頃なふとんを見つけレジで支払いをしようとする学生に、なんとそのふとんをプレゼントしてくれたのだという。「ふとん」と「プレゼント」という組み合わせに若干の違和感はあるが、ほんわかとした気持ちになる話である。
この発表を聞いて、妙に「親切なおじいさん」の人物像を知りたくなった私は、学生に「その人は何歳くらい?」と質問してみた。すると「たぶん55歳くらい」と言う。「50+5」という読みは笑えるが、それはおじいさんではない。実は「おじいさん」と「おじさん」、「おばあさん」と「おばさん」を混同している学生は多い。発音が似ているということもあるが、若い彼らからすればどちらも大差ないのかもしれない。が、この私は一体どちらで呼ばれているのか。最近、それがちょっと気になる。