No.58 夏が来れば
2017/08/07
夏はのんびりバカンスに…といきたいところだが、なかなかそうもいかない。日本語教師を始めてからというもの、夏は一年で最も忙しい季節だ。記憶する限り一番忙しい夏を送ったのは、台湾の日語補習班。普段も早朝班から夜まで授業はあるものの、途中の時間もビッシリと埋まっているわけではなく、空いている時間に「ちょっとお昼寝」と、バスでアパートに戻ったりもできた。が、夏はそうはいかない。途中の時間にも「夏期集中クラス」やプライベートレッスンが入り、8月はまさに早朝から夜までフル稼働。しっかり食べてもどんどん体重が減り、これまでの人生で驚くべきサイズを記録したのもこの頃だ。
ここ数年は夏限定で、ある日本語研修の仕事に携わっている。研修が行われる施設までは、家から乗り換え時間も含めて片道約2時間かかる。学校に通うときと同じ電車に乗るのだが、降りる駅はずっと遠くなる。大きな川を越えて、都心とは車窓の風景を変えながら、電車はどんどん進んでいく。こうなると、ちょっとした旅気分だ。早朝の電車は座ることもでき、私は終点まで乗るので、万が一、ぐっすり寝込んでしまっても安心である。というわけで、当初は「本でも読もう」と考えていた通勤時間は、睡眠時間の補給に使われている。
さて、こうして通う研修では、ベトナムからの研修生に日本語を教えている。日常会話程度の日本語は既にベトナムで勉強してきており、来日後はさらに専門知識を日本語で学んでいる。日本人でも普段は使わない表現、知らない語彙を、時には難しい漢字で覚えなければならない。それを日々こなしているのだから頭が下がる思いだ。そして、「がんばれ!」という気持ちになる。いや、こちらが「がんばれ!」と言われているような気持ちにさえなるのである。
毎日課される宿題をチェックしていると、「全部」を「金部」、「体調」を「休調」、「恋人」を「変人」と書くなど誤字もちらほら見受けられるが、それにもかえって癒される。「変人」に至っては、思わずフフッと笑いがもれた。日々努力している人たちの間違いやミスには、人間は寛容になれるものなのかもしれない。研修中、教師としてストレスを感じない理由はここにありそうだ。
約1か月半の研修もあと少し。ストレスもなく、往復の電車で熟睡できたせいか、まったく痩せることなく終わろうとしている。思えば、台湾の日語補習班で多忙のため激ヤセしたのは今から20年近く前のこと。まだ若かりし頃だ。ウエストがゆるかった細身のパンツも幻。今では、叶わぬ夢なのである。