No.120 歴史散歩とカメ | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.120 歴史散歩とカメ

2020/02/19

平日の午前11時すぎ。4クラス、80名を超える学生が校舎1階に集合していた。これから、2つのグループに分かれて、10月期選択授業「日本の歴史」の最終日を飾るイベント、「歴史散歩」に出かけるのである。当日は天気が心配されたが、晴れオトコ・晴れオンナが多かったのか、はたまた日頃の行いがよかったのか、これ以上ない絶好の散歩日和となった。


私が選択授業で「日本の歴史」を担当するのは初めてのことだった。なぜ担当したことがなかったのか。それは、ズバリ、希望しなかったからである。日本史が嫌いなわけではない。が、高校時代、大学入試の社会は「世界史」と早々に決めていた私は、愚かにも日本史の授業はほとんど聞かず、もっぱら世界史の内職に励んでいた。だからか「日本の歴史」と聞くと、苦手意識がまず出てしまう。「できれば避けたい」と思い続けて、ここまで来ていたのだ。


だが、10月期は「日本の歴史」を希望する学生が予想を超えたとのことで、ついに私のところに「いかがでしょう?」という話が回ってきた、という次第。果たして、担当してみた感想はどうだったか。高校時代の「穴」が埋まったかどうかは不明だが、日本語教師として以前に、日本人として恥ずかしくない程度に日本史を学び直す機会になった。今まで見落としていたことにも気づくことができ、苦手なことこそ前向きに取り組んでみるべきだとつくづく感じた。


さて、歴史散歩である。2つに分かれたグループのうち、私が引率として参加したのは、学校を出て、徳川慶喜屋敷跡碑、夏目漱石菩提寺、神田上水取水口大洗堰跡といったスポットを巡り、肥後細川庭園がゴール。そこで解散という、予定では45分ほどの行程である。解散後、学生は細川庭園内の散策を楽しむもよし、そのまま帰宅するもよし、ということだった。


「引率」などと書いたが、実は私がこのルートを歩くのは初めて。どこをどう行くのか全く知ならない。ルートを熟知し先頭を行く専任教師に全てを委ね、ひたすら交通整理係に徹した。道幅の狭い界隈を約40名の学生を連れて歩くのは、それなりに注意が必要なのだ。「大声でしゃべったり、横に広がったりしないように」と、最後尾で目を光らせる。マナーは合格だが、信号にさしかかって列が途切れてしまい、遅れる。交通整理もけっこう神経を使うのである。


予定の時間は過ぎているが、ゴールはまだか…そんな気持ちになっていたときだった。目の前に不思議な光景が。「リクガメの散歩」に遭遇したのである。飼い主らしき男性の傍らで、ゆっくりゆっくり歩を進める大きなリクガメの姿は、まるで悠久の歴史を辿っているようでもあった。学生も大喜びで撮影会。忘れられないカメ散歩、ならぬ歴史散歩となった。



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