No.135 「幸せになります」
2020/12/09
今年も気がつけば、もう師走。私はこの「師走」という言葉が好きだ。そこに漂う慌ただしさは、一年が終わってしまう寂しさよりも、いろんな出来事を振り返りつつ、新たな年に思いを馳せる人々のパワーを想像させるからである。今年に関しては、いつもとは違うさまざまな思いが去来するが、とにかく師走である。ここは新年に向けてテンションを上げたいものだと、2021年の手帳を準備した。例年12月から新しい手帳を使うことにしており、そこに「引継ぎ事項」を書き込んだ。引退した手帳は、そのまま「日記」となる。きっと、2020年も懐かしく思える日が来るのだろう。
留学生たちにとっても大変な日々が続いていたが、光明も差した。「日本留学試験」と「日本語能力試験」である。どちらも留学生にとって非常に重要な試験なのは言うまでもないが、残念ながら、コロナ禍により、それぞれ第1回に当たる6月と7月の試験が中止となっていた。なかなか収束が見えずに、果たして…と心配された中、11月と12月の第2回が開催されたのである。これは学生たちの進学や就職のため、そしてモチベーションを保つためにも、大きな意味があるはずだ。
そこで、私がいつもより少し熱量をアップして臨んだ授業がある。選択授業「日本語能力試験対策~N2レベルを目指す読解&聴解」である。「N2を目指す」ではなく「N2レベルを目指す」というのは、中にはN3を受験する学生もいるからで、しかも、全員が非漢字圏の学生だ。当然ながら、レベルには差があるが、N2にもN3にも対応できるように工夫をしつつ授業に臨んだ。教師にできるのは、学生たちに楽しく学び、自信をもって本試験に挑んでもらうことくらいなのだが…。
ある日、そのクラスで聴解「即時応答」の練習をしていたときのこと。これは日常的なごく短いやりとりの問題なのであるが、「結婚おめでとうございます。お幸せに」に対する返事を「①いいえ、それほどでも②はい、そちらこそ③ありがとうございます。幸せになります」といった選択肢から選ぶ。答えは3番。と、ある男子学生が満面の笑みになっている。聞けば、彼は数日後に結婚するのだそうで、この「ありがとうございます。幸せになります」を自分もぜひ使いたいと言う。「いい言葉を勉強しました」と、喜びをかくせない表情で、他のクラスメートからも冷やかされている。もちろん、教室にはみんなの「おめでとう」とあたたかい拍手が響き、一気に祝福ムードに包まれた。
思えば「幸せ」の少ない一年であった。先日、テレビで「年賀状」について取り上げていたが、マナー講師によると、年賀状には「去年はコロナ禍で大変でしたね」といった、ネガティブな文言はご法度とのこと。たしかに言葉は大切だ。収束が見えない中でも、気持ちや言葉がポジティブであれば、来年はきっといい年に…。そんな思いを込めて、私は鮮やかなレモン色の手帳を選んだ。