日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.36 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.36 食のチカラ

2016/09/08

留学生たちにとって、日本での生活を左右する条件は、人間関係や経済的なことなど数々あるだろうが、忘れてはいけないのが「食」だろう。私自身も海外生活の中で、ちょっとストレスを感じたときなど、現地の「食」に救われたものだ。特に初めて暮らした台湾は外食文化がとても充実しており、アパート近くにある屋台によく通った。日本のテレビ番組で紹介されている『臭豆腐』は、その名の通りかなりニオイが強烈だが、実はなかなかの美味。私にとって台湾の思い出の一つである。


何をおいしいと思うかは、もちろん人それぞれだ。以前は「外国人には好まれない食べ物の代表」のように言われていた納豆も、「好きですよ」という留学生が増えた。中には目をキラキラさせて「大好きです。毎日食べます」という欧米の学生もいたりして、こちらがビックリさせられる。そういえば、かつて「黒い紙」扱いされた焼き海苔も、汚名を返上して、今や健康食として人気が上昇しているようだ。隔世の感がある。

 

さて、先日あるプログラムの日本語教育で担当したベトナム人学習者に、何気なく「日本料理はどうですか」と聞いてみた。彼らは、研修施設で暮らし、同じ施設内の教室で日本語を学んでいる。1日3食、施設の食堂で食べるという、留学生とはまったく違う環境にいた。学習者からよく耳にするのは「日本料理は甘いです」という声。まずいというわけではないが、毎日となると少し飽きてしまう―といったニュアンスである。が、今回の声はちょっと違った。ある学習者が「日本の鶏肉は、柔らかすぎておいしくないです!」と、キッパリ言い放ったのである。


理由を聞くと、「日本のニワトリは運動しないから筋肉がありませんが、ベトナムのニワトリは自由に走っているからいい」とのこと。そう言われて、私なりに思い浮かべてみた。狭い空間で窮屈そうにしているニワトリと、「コケコッコー」と元気かつ自由に庭を走り回るニワトリ。実に、涙を誘う対比である。とはいえ、「お菓子がおいしくて、3キロ太りました」と笑う学習者も。幸い日本は食べ物の選択肢が多い。ぜひ、自分の口に合う「食」を見つけて、日本での生活を楽しんでほしいものである。

 

余談だが、私は人生で未だかつて食欲不振になったことがない。どこでも暮らしていける理由は「食」にあったのだと、猛暑の夏に確信した。

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