海外での経験も豊富なベテラン教師が、日本語教師の日々をつづるエッセイ | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.68 異国の休日

2017/12/25

今年の師走もあとわずか。多くの人々にとっては、忘年会をこなしつつ「今年をどう締めくくるべきか」などと考える年の瀬である。そんな中、同僚の日本語教師が、あるプログラムのためにベトナムのハノイに旅立った。出発も迫った11月下旬に学校で会った際、「準備は進んでる?」と声をかけたところ、本人はまだ「12月上旬にハノイに赴任する」という実感が湧かないようで、さかんに「まさか、この私が海外で教えることになるとは…」と言う。


ハノイも便利になってきたとはいえ、どうしても現地で手に入らない物もある。「日本から何を持っていくべきか」と悩み、初めての海外暮らしを前に少し不安そうな表情だ。だが、私は「彼女なら、きっと大丈夫だ」と確信している。理由は、その笑顔だ。彼女の笑顔があれば、きっと学習者も教師仲間も、そして彼女自身も癒され、何があっても乗り切れるのではないかと思う。


それでも何か気の利いたアドバイスの一つもしたかったが、つい言いそびれた。この場を借りて、「海外で日本語を教えるにあたって大切なこと」を伝えるとすれば、日本語の教え方云々はさておき、その国や街ならではの「休日」を見つけるということだと思う。もちろん、忙しい毎日での待望の休日に、気の合う同僚とおしゃべりや食事を楽しむのもいいだろう。同じ環境で、悩みや問題を共有できる存在というのは大きいからだ。


ただ、時には人にペースを合わせるのが辛くなることもあるものだ。そんな時のために、自分だけの楽しみや、癒しの空間を見つけてほしい。私の場合、初めての海外生活は台北だった。その中で見つけた「休日」は、あの故宮博物院である。日本から友人たちが遊びに来るたび一緒に訪れたが、それ以外でも、少しストレスを感じたら、休日によく一人で足を運んだものだ。


幸運にもアパート近くのバス停から故宮博物院行きのバスが出ており、のんびりと1時間ほどバスに揺られると、緑に囲まれた空間に到着。時間を気にせず、ゆっくりと館内を巡りつつ、時には日本人観光客に紛れて、現地ガイドの説明に耳を澄ます。何より楽しみだったのは、博物院内にある喫茶室での飲茶だ。月曜日から土曜日の夕方まで授業に追われていた台北の日々で、そこで過ごす時間は、ココロの贅沢、まさに至福のひとときであった。


実は、私が台北に着任したのも12月上旬。ちょうど20年前のことになる。ハノイに行った同僚に自分を重ねて、心地よい緊張感がよみがえった。