No.72 読む時間・観る時間
2018/02/27
今年もこの季節がやってきた。卒業式を控えた学期。多くの学生にとって、新しい旅立ちに向けて胸躍るときである。その分、授業中も「心ここにあらず」という学生も多い。今までも何回か取り上げてきたが、午前クラスの「選択授業」の1月期は、そんな学生のために、楽しみながら学べる内容が揃っている。今年は「物語の朗読」「落語」「アート」といったクラスも登場し、学生ならずとも出席してみたい充実のラインナップだ。
そんな中、私は「小説・エッセイの読解」と「ドラマ」を担当。読解クラスは上級クラスの学生が多いが、「日本語で日本の作品を読んだことがある」という学生は意外に少ない。作家では、村上春樹、吉本ばななの他に、東野圭吾の人気もかなり高い。いずれにしても、多くは「入門編」の学生ゆえ、私のチョイス次第では「日本の作品はつまらない!」ということになりかねない。特に非漢字圏の学生には「やさしさ」も必要だ。これは責任重大である。
授業の進め方は、全6回のうち、1回目は小説、2回目はエッセイ。これは同じ作品を全員で読むので、ある程度は意味の確認などができる。だが、3回目からは複数の作家・作品を用意し、教師の「プレゼン」後、各自が読みたいと思ったものを選んで読む…という手順だ。各回、難易度含めバリエーションをつけた作品選びが必須となり、「準備が面倒か」と思ったがこれが意外と楽しい。書店や図書館でも普段とは違う観点で本を探してみると、「ちょっと苦手だな」と思っていた作家の面白さに気付けたり、ずっと前に読んだ作品を読み返して改めて魅力を知ったり。準備を通して発見があるのだ。
一方、ドラマの時間もまた別の意味で興味深い。こちらは中級クラスが対象だ。1回目の授業でアンケートを取った際、どんなドラマを見たいかという質問に「イケメンが出るドラマ」という回答を見つけた。さっそく、それにぴったりな作品を選び、準備のために家で見てみると、ちょっと刺激的なシーンがあるではないか。授業では、そのシーン直前に「はい、ここカットしまーす!」と宣言し、リモコンで無情な早送り。すると、学生から「あー、先生、ダメダメー!」といっせいに悲鳴と落胆の声。反応が素直で面白い。
小説もドラマも「学生が楽しめるように」と考えながら、教師の好奇心も広げていかないと成り立たない。逆に、教師が面白いと思えれば、授業はうまくいく。1月期は、私にとっても楽しみながら学べる期なのである。