No. 89 がんばれニッポン | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No. 89 がんばれニッポン

2018/11/05

10月期も無事に進行中だ。日本の学校制度における「新年度」は4月がスタートで賑やかな季節だが、日本語学校の留学クラスの4月は、3月に多くの卒業生を送り出した後の少し静かな季節となる。それとは対照的に、留学生がぐんと増えて活気づくのが10月期。まさに今なのである。


今年も多くの新入生を迎えて、午前も午後も教室フル稼働といった状況だ。というわけで、10月期は教師にとってもかなり慌ただしい。私も前期より少し多めにクラスを担当しているが、今期は特に今まで担当したことのないクラスが多い。おそらく100名程度が「初めまして」である。そして、選択授業となると更に多くの学生と接することになり、名前を覚えきる自信などない。年には逆らえず記憶力も衰える一方、という悲しい現実もあり、全員の名前と顔を覚えようというのは、まず無理な話だろう。もはや神業の域。日本語教師たるもの、時には「開き直り」も肝心であると痛感する日々である。


そんなことを考えながらも、初めて担当するクラスでは、初回の授業で必ず自己紹介の時間を設ける。何事も始めが肝心なのだ。さて、自己紹介の際に聞く学生の趣味について、改めて感じたことがある。どのクラスも共通して、男子は「アニメ」「漫画」「ゲーム」と、2次元の世界が不動のトップ3なのに対し、女子はまた別の傾向がある。もちろん、アニメやゲームという女子もいるが、それ以上に「映画」「ドラマ」「音楽」を挙げる学生が多いのだ。


そこで、少し話をふくらませてみようかと、こちらから「どんな音楽が好きですか」と質問してみる。内心、日本の音楽が出るとうれしいなと思いつつ…。しかし、希望的観測に反して、多くの学生からは「K-POPです」「英語の音楽です」という答えが返ってくる。「じゃ、日本の音楽は?」などと軽く食い下がってみるが、「あまり聞きません」と取り付く島もない。映画、ドラマもしかり。最近では「中国のドラマや小説が好き」というベトナムの若者も増えており、以前より「日本」が減っているような気がする。


そんな中、「日本の映画が好きです」という学生が登場。「おお、ようやく」と安堵しながら、最近見た映画のタイトルを聞いてみた。すると、元気なその声が教室に響いた。「『どろぼう家族』です!」。うーむ。それはおそらく、カンヌ国際映画祭で最高賞に輝いたあの映画のことだろう。うれしいような、悲しいような、ちょっと複雑な昨今の自己紹介タイムなのであった。